宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

6月のトピック「身近な社会現象に表れた景気に関する閉塞感払拭し、夏場には景気判断「改善」に戻る可能性高まる」

2016年06月02日

(一年間の長きにわたる景気の「足踏み」判断が、景気ウォッチャー調査コメントに代表されるような閉塞感を招く)

 景気動向指数による機械的判断が昨年5月から「足踏み」で長い間継続している。6月7日発表の4月分まで1年間にわたり同じ判断が続く見込みだ。アベノミクスの好循環に期待してきたが、なかなか明確な改善方向に向かわないため、諦め感が漂っていそうだ。

 また、景気ウォッチャー調査のコメントをみると、2月調査では円高・株安に関するマイナスのコメントが多く、1月末から2月前半のマーケットの大幅な変動の影響で景況感が悪化したことがわかる。3月調査はこれと言った悪材料がないにも関わらずパッとしない内容だった。「良い材料が見当たらない」、「今後は良くならない」、「不透明感が強い」などの漠然とした不安感のコメントが多かった。4月調査では熊本地震によるかなりの下押しがみられた。しかし、データ的には、11年の東日本大震災ほどのマイナス・インパクトはないとみられる(図表1)。

(景気に関する閉塞感は、初詣、猫ブーム、人気ドラマ『99.9』で使われた「トランキーロ」にも表れているようだ)

 今年の正月3が日の初詣の人出は、最も多い明治神宮が317万人で前年比3万人増、成田山新勝寺が309万人で前年比1万人増となった。苦しい時の神頼みではないが、先行きに対する不安心理が強いと参拝客が増える。猫ブームも世の中の不透明感を示唆する現象だ。「なめ猫」は第2次石油危機の景気後退局面で、「猫鍋」は消えた年金問題や姉歯事件のあった07年にブームになった。

 4~6月期の民放・連続ドラマで高視聴率を出しているのは、日曜劇場『99.9-刑事専門弁護士-』だ。4月24日に19.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、今クールで最高視聴率を出した。18.9%の視聴率だった5月15日放送分で、主人公・松本潤の同僚弁護士役の榮倉奈々と香川照之の2人が「トランキーロ」という台詞を言った。「トランキーロ」は新日本プロレスの内藤哲也が口にするスペイン語で「焦んなよ」という意味だ。見せるスポーツであるプロレスは時代を映す鏡である。制御不能の試合をすることで最近人気が出ている内藤哲也は4月10日両国国技館大会でファンの大声援の下、オカダ・カズチカからIWGPヘビー級王座を奪取した(図表2)。内藤はチャンピオンベルトを受け取らずに放り投げたがこれがファンに受ける状況だ。オカダ・カズチカは会社が売り出そうとしてきたチョイ悪のイケメン・レスラーだが、最近のプロレスファンの中には、そうしたものへの反発が大きいのだろう。プロレスファンは世の中の6%に過ぎないが、20%近い視聴率のドラマで使われたことで「トランキーロ」は拡散した。閉塞感漂う景気の現状を示唆する現象とみられる。6月19日の大阪城ホールのリターンマッチの結果が注目される。

 なお、嵐が歌う『99.9-刑事専門弁護士-』の主題歌DaylightがダブルA面の『I seek/Daylight』の初動売上は73万枚と50万枚という景気判断の分岐点を上回った。ドラマの主題歌は、景気の底堅さを示唆する事象である。

(日本の景気を下支えする要素と、下押し圧力になる海外要因のせめぎ合い)

 日本の景気が「足踏み」を長期間続け、景気後退局面入りしない。①アベノミクスによる雇用所得の改善②インバウンド消費③中小企業の底堅い設備投資など、景気を下支えする要因があるからだろう。しかし、昨年夏の中国問題発生以降、海外要因の下押し圧力は強く、「足踏み」状態を招いたのだろう。海外発の下押し要因としては、昨年夏の中国ショックに代表される新興国経済の減速、本来は日本経済にプラスのはずの原油安が悪材料として最近は受け止められること(原油価格の上下がマーケットのリスクオン・リスクオフなる解釈のもと為替・株の変動要因となってしまうため)、今年初の1ドル=110円を割り込む円高や株安というマーケットの大幅変動、ISによるテロ、英国のEU離脱を巡る動き、米国大統領選挙でのトランプ旋風、1~3月期の天候要因などによる米国の減速などがあった。

(ESPフォーキャスト調査5月調査・中国国家統計局の製造業PMIは7~9月期以降50超の見込み)

 中国の実質GDPは6%台の安定成長ペースに減速してきた。過剰生産・過剰在庫などへの対応が必要だからだ。最近の政策効果もあり、足元は安定的な動きとなっている。ESPフォーキャスト調査5月調査で中国国家統計局の製造業PMIの見通し調査では7~9月期以降は50超が50未満を上回っている(6月調査でこの特別調査は中止、図表3)。但し、6月1日時点で元の基準値が1ドル=6.5889元と11年2月15日の6.5929元以来約5年3カ月ぶりの元安水準になるなど、為替の動向には注意が必要だろう。

(アトランタ連銀とニューヨーク連銀GDPナウはともに、4~6月期実質GDP2%台成長を見込む)

 米国景気も年初は力強さが感じられなかった。1~3月期実質GDPは前期比年率+0.8%と低い成長率だった。雇用関連の総合指標LMCIも4月分までは4ヵ月連続マイナスだ。FRBが利上げには慎重とみられた局面では米国の金融政策もドル安・円高要因になっていた。しかし、5月中旬発表の4月分小売売上高や5月分ミシガン大消費者信頼感指数など消費の持ち直しを示唆するデータが発表される頃から、米国景気に対する見方が変わった。アトランタ連銀とニューヨーク連銀の4~6月期のGDPナウは4月末時点では弱かったものの、5月末ではともに実質GDP+2%台成長を見込むようになった(図表4)。FOMC議事録の内容やイエレンFRB議長の発言などからみると、近いうちの利上げの可能性が高くなってきたようだ。但し、昨年12月の利上げが新興国からの資金流出を招いている面もあるので金融政策絡みの動向からは目が離せない。

(有効求人倍率4月分で1.34倍と24年5カ月ぶりの高水準、高校生の就職率は24年ぶりの高水準)

 日本の景気は雇用・所得面を中心に底上げがなされてきた。最近もバブル崩壊直後以来という24年ぶりのデータが発表されることが多い。良く知られているのが有効求人倍率だ。4月分で1.34倍と24年5カ月ぶりの高水準だ。さらに今年3月卒業の高校生の就職率は97.7%と24年ぶりの高水準になった。大学生の就職率は97.3%で過去最高になった。こちらは24年前にはまだ調査が始まっていなかったからだ。また、昨年15年の合計特殊出生率は1.46で94年の1.50以来21年ぶりの水準になった。24年ぶりには届かなかったが、91年1.53、92年1.50、93年1.46なので、24年前にかなり近いところまで、04年の1.26を底に上昇してきた。

 毎月勤労統計のサンプル替えの影響が1年経って一巡したことから今年は実質賃金の前年同月比はプラスになるようになった。GDP統計では雇用者報酬の1~3月期の前期比は名目+0.6%、実質+1.3%、名目は10四半期連続、実質は7四半期連続で前期比増加となった。所得が伸びないことが消費の悪化要因だというようなコメントもあるが、GDPの雇用者報酬の動きから見ると、所得の動向は個人消費の下支え要因になっているようだ。

(東京23区内ホ-ムレスは1月744人でピークの約1/7以下に、AKB「翼はいらない」は初日で133万枚)

 景気に関連性が大きい身近な社会現象は一部弱含みを示唆するものも出てはいるが、依然、景気の底堅さ示唆しているものが多い。

 大相撲の懸賞の最近の動きが高水準ながら頭打ち傾向の企業収益の動きを反映している感がある。大相撲春場所懸賞本数は地方場所過去最高の1672本で広告費・企業収益の底堅さを示唆した。夏場所は千秋楽175本で、15日間全体で過去最高の1979本だった昨年秋場所の千秋楽と並んで史上最高タイを記録した。15日間では1889本と初場所を上回り、史上2位の本数となった。

 6月1日発売のAKB48の新曲「翼はいらない」は初日で133万枚となり、ファンの財布の紐が締っていないことを裏づけた。雇用の限界的なデータをみると、15年の自殺者は2万4025人、前年比▲5.5%で18年ぶり2.5万人割れだ。1-4月も前年比▲9.1%と減少している。東京23区内ホ-ムレスは今年1月に744人で、ピークの約1/7である(図表5)。

 中小企業設備投資の先行指標・機械受注代理店受注は4四半期連続増加した。「下町ロケット」「あさが来た」「とと姉ちゃん」というドラマが人気であることと整合的である。

(4~6月期の鉱工業生産指数や実質GDPは前期比プラスか。夏場には景気判断「改善」に戻る可能性)

 1~3月期の実質GDPは第二次速報値で、法人企業統計の設備投資データなどが反映され前期比年率+2%程度に上方修正されそうだ。4月分鉱工業生産指数・前月比は+0.3%と熊本地震を乗り越え2カ月連続増加となった。4月分家計調査も季節調整済み前月比などは堅調である。4~6月期の鉱工業生産指数や実質GDPは前期比プラスの可能性高まっている。

 伊勢志摩サミット共同宣言では、世界経済について「見通しに対する下方リスクが高まってきている」とし、新たな危機回避に向けて「すべての政策対応を行う」とされた。財政戦略を機動的に実施し、及び構造政策を果断に進めることに関して、政府の適切な対応が期待される。消費税率引き上げは再延期された。天候も目先は景気の味方をしそうだ。10~12月期の消費減少をもたらしたエルニーニョ現象も終息。今夏はラニーニャ現象発生の可能性が高い。暑い夏は夏物消費にプラスになる傾向がある。

 4月分鉱工業生産指数・前月比が増加となったことなどで、早ければ、7月頃に景気動向指数を使った機械的判断で景気回復を示唆する「改善」に戻る可能性が出てきた。そうなれば世の中の景況感は明るさを取り戻すとみられる。