宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

7月のトピック「意外に底堅い日本経済。「英国のEU離脱」の影響等を6月「景気ウォッチャー調査」から丁寧に読むことが肝要。名古屋場所懸賞本数、G1クライマックス優勝者などは景気の補助信号として要注目。」

2016年07月04日

(申年は円高のジンクスが、上半期終了時点では当たっている)

 今年は申年である。変動相場制になって以降、申年は十二支の中で唯一、ドル円レートの動きが円高ドル安という一方向に動く年だ。過去の3回の申年は、80年が前年末比18.1%、92年0.4%、04年2.9%、平均7.1%円高ドル安だ。今年は6月末現在17.3%と2ケタの変動率で円高ドル安だ。

 為替変動の1円超の変動日となった回数を数え、東京市場・ニューヨーク市場震源地分析をしてみると、1~3月期は日本株の投資家の外国人比率が高いこともあってニューヨーク市場発のリスクオフの円高の動きが顕著だったが、4~6月期は日銀の金融政策に絡んだ東京市場発によるものが多い。6月中の東京市場発の1円超の円高は、日銀金融政策決定会合で市場の一部で期待された金融緩和が仏滅のジンクス通り実施されなかった16日と、英国国民投票でEU離脱が決まった24日の2回だ。前日の6月23日では東京市場が終わってニューヨーク市場が始まる間に残留見通しから1円超の円安になっていた。6月24日の日本時間の午前中の値幅は7円超で、国民投票開票の結果が予想外の離脱派多数になったため、106円台後半~99円台と乱高下の展開となった(図表1)。半日で昨年の年間変動幅10円の3/4も動いた。

(CSV形式で発表される「景気W調査」景気判断理由集から誰でも「英国のEU離脱」の影響を計算できる)

 1月末から2月の前半にかけて約11円の大幅変動となった時は「景気ウォッチャー調査」2月調査で、為替関連や株価関連のコメントが増え関連DIも悪かった。「景気ウォッチャー調査」6月調査は7月8日に発表される。調査期間が6月25日~30日なので、英国国民投票でEU離脱が決まったあとの景況感の変化がまるまる読み取れる最初の調査であるので、注目される。「英国」「EU離脱」などと言ったキーワードがどの程度出てきて、関連DIがどうなるか。CSV形式で発表される景気判断理由集から誰でも簡単に計算できるようになっている。また景気ウォッチャー調査の各判断DIとキーワードの関係をしっかり調べれば、その他のビッグデータを分析する時の物差しになることも自明だろう。

(「景気ウォッチャー調査」でみる熊本地震の影響)

 「景気ウォッチャー調査」の5月調査までをみる限りは、足元の景気はあまり芳しいとはいえない。2012年以降の現状判断DI季節調整値をみると、最も低かったのは前回の消費増税が実施された14年4月の37.7であるが、16年4月の数字は40.0とそれに次ぐ低い数字で、5月も40.6にとどまった。海外の景気に対する不安感に、熊本地震の影響が加わったためと思われる。現状判断での「地震・震災」コメントは4月調査で203人、関連DIは29.7だった。景気ウォッチャー2050人の約9割がコメントするので、全体は1800人台になる。5月調査では123人に減り、関連DIは36.4に上昇した。東日本大震災の時は2011年3月調査で1059人、関連DIは21.0、4月調査で884人、関連DIは24.6だった。熊本地震の影響は東日本大震災ほど全体としてみて大きくはないと「景気ウォッチャー調査」からは言えそうだ。東日本大震災では3カ月後の6月調査で449人、関連DIは53.1になり、この時点で東日本大震災の復興のプラス効果がマイナス面を上回った(図表2)。

 今年の5月調査では内閣府の景気ウオォッチャー調査の先行きに対する見方については、「物価動向への懸念がある一方、熊本地震からの復興、夏のボーナスや設備投資増加への期待がみられる」と述べているが、6月調査・7月調査の結果が気になるところだ。

(景気の頭を押さえる材料があっても、景気後退が回避されてきている)

 アベノミクスの好循環に期待してきたが、なかなか明確な改善方向に向かわないため、景気の先行きに対する不透明感が蔓延している。しかし、チャイナショックや円高など様々な海外発の悪材料や熊本地震などがあっても、日本の景気が景気後退局面入りしないでこられたことから、意外と日本の景気が底堅いとも言える。景気動向指数による機械的判断が昨年5月から「足踏み」で長い間継続している。少なくとも7月7日発表の5月分まで1年1ヵ月間にわたり同じ判断が続く見込みだ。

 6月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIは6月調査と同水準の+6となった。「先行き」の業況判断DIをみると、+6と「最近」の+6と同水準のDIが見込まれている。また6月調査の「日銀短観」は、全規模・全産業ベースの「最近」業況判断が3月調査に比べ3ポイント低下し+4になり、「先行き」が+2に低下するなど、不透明な経済環境の下、企業の景況感がやや下振れていることを示唆する結果になった。しかし、DIがプラス圏を維持していること、6月調査の「最近」業況判断は3月調査の「先行き」見通し+1にくらべ3ポイント上振れ、事前の予想よりは良かったことなどの底堅さも感じられる。

 景気の底堅さは、雇用・所得環境がかなり改善されてきていることが大きい。この雇用・所得の好調さが支えとなり、景気が大きく後退することは避けられている。但し、所得の好調は15年の毎月勤労統計がサンプル替えの影響で表面的に悪い数字となったことで、世間ではあまり認識されていない。また、中小企業の設備投資も底堅い面がある。

 景気の見通しを立てる場合、主要統計の公表が遅いので、私は補助的なデータとして、身近で起きている社会現象を活用している。例えば、個人消費の動向を見る上で、子どもたちの間で何が流行しているかということが、案外重要な手がかりとなったりする。人々にとって景気が良いか悪いかわかりにくい状況が続いたため、今年は正月三が日の初詣の人出の苦しい時の神頼み的な参拝者増加や、癒しを求める猫ブームなど、先行きに対する不安心理や世の中の不透明感を示唆する現象が目立つ。

(オカダ・カズチカIWGP王者がGIも制するかが世の中の閉塞感のチェックのバロメーターに)

 4~6月期の連続ドラマで最も高視聴率だったのは日曜劇場『99.9―刑事専門弁護士』だ。ビデオリサーチ関東地区の平均は4月24日と6月19日19.1%、5月15日に18.9%を記録した。5月15日放送の第5回で榮倉奈々と香川照之が「トランキーロ」という台詞を使った。6月19日放送の最終回で松本潤(主人公の深山弁護士役)のことを「制御不能」「トランキーロ」と言う香川照之の台詞もあった。「トランキーロ」は、新日本プロレスの内藤哲也が口にする台詞で「焦んなよ」という意味のスペイン語だ。20%近い視聴率の人気ドラマを通じて、ファンが人口の6%の世界から「制御不能」「トランキーロ」は世の中に拡散した。

 「制御不能」の試合をするようになって人気が出た内藤哲也は4月10日に両国国技館でファンの声援の下、会社一押しのイケメン・レスラーのオカダ・カズチカから由緒あるIWGP王座を奪取した。見せるスポーツであるプロレスではファン受けする流れができる傾向にある。試合中に寝そべったり、奪取したチャンピオンベルトを腰に巻かずリング上に放り投げる制御不能のファイトスタイルの内藤哲也がチャンピオンになったことは、世の中の閉塞感を示唆する現象のひとつと言えるだろう。但し、英国のEU離脱が決まる前の、6月19日大阪城ホールのリターンマッチではオカダ・カズチカが奪還に成功した。世の中の閉塞感が変わり始める動きかもしれない。今夏の20人参加のリーグ戦GIクライマックスでIWGP王者のオカダ・カズチカが王者として優勝するか、はたまた内藤哲也が優勝するかどうか、世の中の雰囲気を読み説くためにも目が離せない。

(嵐ファン、AKB48ファンの懐は暖かい? 一方「笑点」の視聴率に気になる動き)

 なお、5月18日発売の『99.9』の主題歌『Daylight』がダブルA面の『I seek/Daylight』の嵐の初動売上(発売最初の一週間)は73万枚と50万枚という景気判断の分岐点を上回った。また、指原莉乃が243011(下から読むと「1位をさっしーに」)票で初の2連覇となったAKB総選挙。その投票券がついた6月1日発売の『翼はいらない』は初動144万枚だった。嵐ファン、AKB48ファンの財布の紐は締っていないようだ。中央競馬の売得金の年初からの累計前年比は7月3日までで+4.2%と今年最高の伸び率となった(図表3)。一方、他の身近なデータでは司会者交代という特殊要因があるためか、4~6月期の「笑点」の視聴率が「その他娯楽番組」の1位になる週が8回もあった。実質GDPがマイナス成長だった13年10~12月期以来の多さである。日曜の夕方買い物やレジャーを控え、日曜夕方にテレビを見ている消費者は増えたかもしれない点は要注意だ。

 なお、「中日」が球団80周年記念事業の一環として、大相撲名古屋場所で、懸賞旗を掲示することを発表した。取組は、中入り後の8番目を予定し、1日1本15日間、計15本だ。プロ野球球団初の懸賞として話題になっている。大相撲の懸賞は地方場所では3月の大阪場所の1672本まで史上最多更新が約2年続いている。7月10日からの名古屋場所でも記録更新なるかが注目される(図表4)。

(夏の消費増につながる、ラニーニャ現象も支援材料)

 気象庁発表のエルニーニョ監視指数をみると、ペルー沖監視海域の月平均海面水温の基準偏差値が、5月にはプラス0.1と前月より0.7ポイント下がった。プラス0.5を下回ることがエルニーニョ現象(ペルー沖海水温がより高くなる現象)の終結のおおよその目安だ。16年は逆のラニーニャ現象が現れると予想されているが、ラニーニャ現象は日本の猛暑につながりやすいといわれるので、夏の消費にはプラスとなるだろう。

 政府・日銀の政策期待と合わせ、目先の景気の支援材料になろう。