宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

10月のトピック「円高や天候の影響等から底堅いながらも足踏みの景況感だが、大関・豪栄道に似て変化の兆しも」

2016年10月05日

(日本経済は、大関・豪栄道と似たような状況か)

103円という日本企業の採算レートを上回る100円近い円高基調が続いたことが企業収益の下押し要因になっている。長期間の足踏み状況で、日本の景気や物価への不透明感が根強いが、底堅さもみられ年末にかけ明るさも出てこよう。日本経済は、秋場所で初優勝した大関・豪栄道と似たような状況だと思っている。大関に昇進してから初優勝する前の場所までの豪栄道の勝率は93勝86敗の5割2分だった(図表1)。初優勝するまでの大関としては最低の勝率で、怪我が多く、4回も負け越したことが影響している。勝率は5割そこそこということで、負け越してはいない。景気後退を回避しながら、一進一退を続ける日本経済と同じだ。

鉱工業生産の判断を見ると、15年5~7月が「一進一退」、15年8月は「弱含み」に下方修正されたが、15年9月~16年5月まで「一進一退」に戻し、16年6月には「一進一退だが、一部に持ち直し」と若干、上方修正されている。そして、16年8月分で「緩やかな持ち直し」になった。日本経済にはいくつか明るい兆しがあるため、秋場所で初優勝を飾った豪栄道が日本経済の先行指標になるような形で、日本経済も回復すると思っている。

(9月調査日銀短観は、一見冴えないが、良く見ると底堅い面も)

9月調査日銀短観は、大企業・製造業の業況判断DIは+6と6月調査の+6と横ばいだった。円高の影響などが出ていよう。但し、内訳の素材業種、加工業種ごとの業況判断DIがともに+7と6月調査の+6から1ポイント改善しているので、大企業・製造業全体の業況判断DIの+6は+7に限りなく近い+6とみられる。大企業・製造業の業況判断DIは鉱工業生産指数の動きと相関性が高く、7~9月鉱工業生産指数の前期比が+0.2%と微増であることと整合的な結果と言えるだろう。

1ドル=100円台前半の円高基調が継続している。9月調査で16年度の企業の想定為替レートが107円92銭であることから、企業収益・輸出・生産にマイナスの影響が出ていると考えられる。業況判断DIは足踏み状態で2ケタのプラスにはならないが、14期連続で「良い」超を意味するプラスを維持できたことで底堅さも確認できたと言えよう。大企業・製造業で「悪い」と答えた割合は16年3月調査・6月調査とも10%だったが、9月調査では9%と1ポイント低下した。

9月調査日銀短観は、不透明な経済環境の下、企業の景況感の改善がもたついていることを示唆する結果になった。しかし、大企業・中堅企業・中小企業それぞれ製造業・非製造業の6つのカテゴリーで、業況判断DIが中小企業・製造業を除きプラス圏を維持していること、中小企業の業況判断DIも製造業・非製造業とも9月調査の「最近」業況判断は6月調査のより上振れたことなどから、景気の底堅さも感じられる内容になった。

(日本ハムの逆転優勝などが人々を元気にする可能性も、3年ぶりに止まった販売価格見通しの下落基調)

パ・リーグでは日本ハムが11.5ゲーム差からの逆転優勝を決めた。10ゲーム差以上からの逆転優勝は、人々を元気にする傾向が強い。リーマンショックが起きた08年の巨人(13ゲーム差)を除くと、過去3回の逆転優勝決定時の景気局面は拡張だった(図表2)。

また、セ・リーグで優勝した広島カープもデフレを払拭するパワーを持っていると考えられる。広島カープが優勝した暦年の名目GDPの平均値は+7.4%であり、Aクラス入りの平均値でも+5.8%と高い成長となっている。そして、97年の金融危機後はAクラスから遠ざかってしまい、デフレも続いた。Aクラスに復帰した13年の名目GDPは+0.8%であり、Aクラスに入ったなかでは最低だがマイナス成長は一度もなく、名目成長率がプラスになるデフレ脱却のシンボルと捉えている。ちなみに、日銀が9月21日に公表した総括的な検証における合成予想物価上昇率では、13~14年は上昇と高止まりを示唆していたが、15年は下落に転じてしまい、その15年の広島カープはBクラスに落ちている。16年は広島カープが優勝したことで、予想インフレ率が上がることを期待している。

日本の予想物価上昇率は足元の物価動向に左右される適合的期待の部分が大きいと言われる。9月調査日銀短観「企業の物価見通し」の全規模・全産業ベースの物価全般の見通し平均は、1年後が+0.6%、3年後が+1.0%、5年後が+1.0%と全て6月調査から0.1ポイント低下した。足元の消費者物価指数の前年比マイナス幅が拡大してきたことなどが反映されていよう。しかし、全規模・全産業ベースの販売価格見通しの平均は、1年後が+0.2%、3年後+0.8%、5年後+1.1%と6月調査と同じであった。14年9月調査から続いてきた販売価格見通しの下落基調が、低水準の伸び率ではあるものの3年ぶりに止まったことが物価動向の変化の兆しになることを期待したいところだ(図表3)。消費者物価に先行する国内企業物価指数の前年同月比は8月分が▲3.6%で5月分の▲4.3%を底に3カ月連続マイナス幅が縮小してきた。今後、消費者物価が下げ止まれば、適合的期待面から予想物価上昇率上昇に寄与することになろう。

(日本シリーズの組み合わせや、伊調馨選手の国民栄誉賞受賞も、景気支援材料か)

プロ野球は今後、クライマックスシリーズを経て日本シリーズになるが、日本シリーズにおける対戦カードも景気拡張をサポートすることが見込まれる。人気球団が日本シリーズで対戦すると景気は良くなる特徴がある。リーグ戦で1位の広島(人気3位:読売新聞が今年2月に発表した世論調査による)と日本ハム(同2位)、あるいはリーグ戦2位の巨人(同1位)とソフトバンクホークス(同1位)のいずれかが、順当に日本シリーズに進出すると、対戦カードの人気順位を足した数字が5以下となり、景気が拡張局面となる可能性が高い。また、リーグ戦3位のDeNA(同5位)やロッテ(同4位タイ)が日本シリーズに進出したとしても、05年と10年のロッテのように人気順位を足した数字が7以上でも下克上の日本一になれば、人々を元気にさせて景気は拡張局面を続けたことからみて心配なさそうだ。特にリーグ戦の終盤に勝ちを重ねたDeNAは明るいラミレス監督の下、終盤に強かった流れで勝ち進めば、にわかファンを巻き込んで盛り上がる可能性もありそうだ。

このほか、スポーツ関連では、リオデジャネイロ五輪で日本は金メダルを12個獲得し、世界のメダルランキングは6位だった。ランキング10位までの国の金メダル数と世界経済に占める名目GDPのシェアの相関係数は0.868である。相関係数は1に近いほど関係性が高いことを示す。選手育成などにお金を掛けられる国が強いとも言えるし、金メダルを獲るとその国の人々が元気になって、景気が良くなるとも言え、相乗効果が生み出されている。また、政府は9月13日、リオ五輪の女子レスリング58キロ級で金メダルを獲得し、女子の個人種目で4大会連続金メダルという世界初の快挙を成し遂げた伊調馨選手への国民栄誉賞授与を決定した。これまで五輪で4連覇を達成した選手は陸上のカール・ルイスや競泳のマイケル・フェルプスらで、男子でも4人しかいない。国民栄誉賞を文化人などが受賞する時は景気後退局面に当たることが結構あるが、スポーツ選手が受賞した時は、概ね景気は拡張局面である。過去のスポーツ選手の受賞のうち、唯一、王貞治選手の時が景気後退局面で翌月に景気の谷が来た。吉田沙保里選手の時は景気の谷での受賞だった。スポーツ選手は偉業を成し遂げた直後の盛り上がった雰囲気の中で受賞することが多い。頑張った選手を称賛することが国民一人ひとりにとっても元気をもらうことになるのだろう。

(7~9月期の経済動向は天候の悪化が下振れ要因だった)

景気ウォッチャー調査はDIがまだ50%を下回る状況だが、4月分・5月分でみられた熊本地震によるマインド面の下押し圧力は6月分でかなり薄れ、7・8月分でプラスに働くようになるなど、落ち着いてきている。8月調査では英国EU離脱決定の影響も薄れた。大きな悪材料は北海道・東北に上陸した台風だった。8月の景気ウオッチャー調査について、キーワード別のDIを作成してみると、8月に4個も上陸した「台風」が景況感を押し下げていた。現状DIの回答数は48人となり、7月の4人から急増し、DIも29.1と全体DIを6.5ポイント下回った。9月も2つの台風が上陸したため、7~9月の上陸数は6となった。経済産業省が発表している百貨店・スーパー販売額を消費者物価指数で実質化した四半期データを見ると、72年~16年4~6月期までの前年同期比の平均値は+1.5%となっている。そのうち、7~9月期について、台風の上陸数が0~1個だった年は同+2.8%で影響はなくしっかりした伸び率だ。しかし、6個だと同+0.7%と半分程度の伸び率に鈍化し、過去最高の10個だった04年は同▲0.8%とマイナスだ。また、8月の小売業販売額の前月比は▲1.1%と弱く、台風は景気の下押し材料だ。 ただ、小売業販売額は7月が前月比+1.5%と強かったため、8月分の前月比▲1.1%の後9月分が減少を続けても、7~9月の前期比はプラスになる可能性が期待できる。また、内閣府が算出している自動車販売の前月比も7~8月は増加が続いている。台風の悪影響は懸念されるが、消費が大幅減と腰折れする可能性は低いと見ている。

また、生産の在庫サイクルは、ほぼ在庫調整の局面を終了した。16年2月の愛知製鋼の事故や16年4月の熊本地震で在庫調整の進捗はもたつく局面もあったが、16年7月の時点で出荷も在庫も前年比がマイナスとなり、8月には出荷がプラスに転じたことで、在庫調整局面の終了が意識され、生産の抑制材料が解消されたと見られる(図表4)。

(新しい朝ドラ「べっぴんさん」の初回は「あさが来た」を上回った)

中央競馬売上高はしっかりしている。10月2日までの年初からの累計前年比は+4.0%である。秋のG1初戦のスプリンターズ・ステークスの売上高も前年比+4.0%だった。中小企業設備投資の先行指標・機械受注代理店受注・前年同月比は7月分まで12カ月連続増加した。企業経営者を主人公とするドラマ「下町ロケット」「あさが来た」「とと姉ちゃん」の人気と整合的だ。「とと姉ちゃん」の期間平均視聴率は22.8%で「あさが来た」の23.5%、02年の「さくら」の23.3%に次ぎ朝ドラでは今世紀3番目の高視聴率だった。「ファミリア」の創業者のひとりをモデルにした新しい朝ドラ「べっぴんさん」の初回10月3日の視聴率は21.6%で「あさが来た」の初回21.2%を上回った。

9月調査日銀短観のソフトウェアを含み土地投資額を除くベース(GDPの設備投資の概念に近い)の全産業・全規模の設備投資16年度の計画は前年度比+4.6%の伸び率で比較的底堅い。企業収益の下振れ懸念を振り払い、実際に設備投資が実行されることが期待される。