宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

11月のトピック「台風の影響など足元もたつく景気だが、今後の改善示唆するデータも多い」

2016年11月02日

(鉱工業生産指数、前年比は9四半期ぶりに増加に転じる)

海外要因や国内の構造要因などで、長期間足踏み状況で日本の景気や物価への不透明感が根強いが、底堅さもみられる。長らく、「一進一退」の基調判断が続いていた鉱工業生産指数は、16年8月分で「緩やかな持ち直し」に上方修正され、9月分も同じ判断になった。
鉱工業生産指数・9月分速報値前月比は0.0%と横這いだが、前年同月比は+0.9%と2ヵ月連続の増加になった。鉱工業生産指数を四半期データでみると、7~9月期の前期比は+1.1%と14年10~12月期、15年1~3月期以来1年半ぶりの2四半期連続の増加になった。また7~9月期の前年同期比は、+0.2%と14年4~6月期の+2.7%以来、9四半期ぶりの増加に転じた。
大きな動きをチェックするために、鉱工業全体での縦軸に在庫の前年比をとった在庫サイクル図(図表1)をみると、14年1~3月期では、出荷の前年比が+7.4%、在庫が同▲1.2%、と45度線を下回っていた。しかし、14年4~6月期では、在庫が前年同期比増加に転じ、出荷の前年比が+0.9%、在庫が同+3.1%、と45度線を上回ってしまい、在庫積み上がり局面に入った。15年10~12月期では、出荷の前年比が▲0.8%、在庫が同0.0%、と45度線に近づいたものの、16年に入って愛知製鋼の爆発事故、熊本地震、円高進展などがありもたついた。ようやく16年7~9月期で、出荷の前年比が▲0.9%、在庫が同▲2.0%と45度線を下回った。在庫調整局面を脱し、意図せざる在庫減少局面へ移行したとみられるため、今後は生産が増加しやすくなろう。

(十二支の中で申年だけ過去全て円高、今年も当てはまった)

今年2016年は申年である。申年は「ドル安・円高になりやすい」というアノマリーがあるが、11月初めの時点では成立している。
変動相場制になって以降、干支とドル円レートの関係をみると、他の11の干支は、円高が進んだ年と円安が進んだ年と、どちらもあるが、申年だけは過去3回とも全て円高であった(図表2)。
昨年末120円程度だったドル円レートは10月末時点で105円程度となっている。年初の予想では、日米の金融政策の違いから2016年はドル高・円安方向に進むと言われていた。日銀が金融政策にマイナス金利を導入した1月29日に一時的に121円68銭をつけたが、これが今年の円の最安値となった。その後、原油価格の下落などを受け、「リスクオフの動きが出る」と市場でしきりと言われる中、円高が進んだ。2月11日には110円97銭のドル安・円高になった。2015年の年間の年幅の10円を上回る約11円の急激なドル安・円高が短期間に生じた。その後は予想された米国の利上げが見送られる状況の下、概ね1ドル=115円から105円の間でやや円高気味に推移した。6月24日に、英国の国民投票でEU離脱決定という予想外の事態になったことから、一日で7円程度の大幅円高になり、一時99円ちょうどまで円高が進んだ。今のところ、これが今年の円の最高値である。8月16日に99円52銭をつけるなど、再度、円高方向をうかがう動きもあったが、米国の経済が持ち直してきて、年内の利上げが織り込まれる中、ドル高・円安方向の動きとなっている。

(ドル円レートの先行指数の日経記事の動きはまだ円高記事数超だが、足元の一服状況を示唆か)

ひと月の前半と後半という、半月毎に、日経新聞の円安の記事数から円高の記事数を差し引いたものをグラフ化し、ドル円レートと重ねると、記事数の方がドル円レートにやや先行する傾向がわかる(図表3)。市場の「織り込み済み」の様子を新聞記事数の差が示唆するからだろう。
4月前半に円高記事が円安の記事を193上回って以降、記事数が円高超の状態が長く続いた。8月前半で、円高の記事が上回る数が、今年最高の213を記録したが、その後8月後半に1ドル100円割れがあった。最近は円高記事が多い状況だが、差の数字は100前後となっている。実際のドル円レートはやや円安気味だが、達観すると概ね100円台前半中心の円高基調で落ち着いていることと整合的だと思われる。
目先の波乱材料は11月8日の米大統領選挙だろう。10月上旬にトランプ氏の女性蔑視発言が発覚して以降は、世論調査でクリントン氏は大きく支持を集めていたが、クリントン氏の私用メール問題に新たなる疑惑が生じ、FBIが捜査再開したことで再び接戦となっている。万一、トランプ氏が勝った場合、円高・ドル安方向に大きく動くリスクもあろう。

(大統領選挙の翌年は過去5回連続円安、酉年は過去円安の動きが多い)

大統領選挙の翌年はビル・クリントン大統領第2期の97年以降13年まで5回連続してドル高・円安の動きとなっている(図表4)。また来年の干支は、酉年だ。酉年は円高1回、円安2回で平均すると2.6%の円安だ。辰年と巳年と並んで、平均で円安に動いている3つの干支のひとつである。なお、辰年と巳年は各々1回円高、3回円安である。株式市場の格言で「辰巳天井」と言われ、株価の上昇率が高い年の干支は円安になりやすい。酉年も円安になりやすいが、株価も上昇しやすい傾向がある。酉年の日経平均株価は51年以降、5回中4回上昇、下降は57年の1回だけで、平均15%上昇している。

(今年は台風が年間6個上陸。観測史上第2位タイの多さ。台風が多い年は7~9月期の個人消費が弱い)

米国の大統領選挙の結果によるが、ドル円レートが1ドル=100円を上回る円高回避となれば、足元までもたついている日本の景気にとっても安心材料になってこよう。
足もと日本の景気は個人消費がもたつき芳しくないと報じられることが多い。11月14日に発表される16年7~9月期のGDPでも実質個人消費は前期比ゼロ程度と弱い数字になりそうだ。しかし、これは台風や、9月になっても気温が高かったという天候要因の影響が大きそうだ。景気ウォッチャー調査によると、8月・9月の大きな悪材料は台風以外に見当たらない。今年は8月に4個、9月に2個上陸した台風。年間6個上陸は、観測史上第2位タイの多さだ。台風が多い年は7~9月期の個人消費が弱い。最近は天候不順もあり外出を手控える消費者も多いようで、笑点の視聴率がその他娯楽番組で第1位になることが多い。
しかし、天候要因、自然災害、海外発の下振れ要因などがあっても、景気が何とか後退局面にならず、足踏み状況にとどまってきたのは、雇用・所得面を中心にした景気の底上げの動きが背景にあるからだろう。日銀短観をみても、雇用吸収力大きい非製造業の業況判断はここ3年間、大企業・中小企業ともマイナスになっていない。

(日本ハムと広島の日本シリーズの対戦カードは景気拡張局面示唆)

景気に関連性が大きい身近な社会現象は、依然、概ね景気底堅さ示唆しているものが多い。例えば、自殺者数は限界的な雇用関連指標で今年も改善している。1~9月の前年比は▲9.0%で、今年は2.2万人程度か。3万人ははるか昔になった。
リオ・オリンピックのメダルラッシュは国民の気持ちを前向きにして開催期間中の株価上昇を後押しした。女子レスリング伊調馨選手がオリンピックで女子個人競技初の4連覇を果たし、国民栄誉賞を10月20日に受賞した。過去スポーツ選手が受賞した時は、概ね景気は拡張局面である。
広島の25年ぶりセ・リーグ制覇。日本ハムの11.5ゲーム差を逆転してのパ・リーグ制覇。日本ハムが10年ぶりの日本一となって、パ・リーグ人気2位とセ・リーグ人気3位の日本ハムと広島の日本シリーズの対戦カードは人気ランキング合計5になった。86年以降、合計が2~5の場合17回中16回が景気拡張局面にあたることから、現在は景気が拡張局面にあることを示唆していよう。日本シリーズの関東地区のテレビ視聴率は全試合の平均で18.0%だった。優勝が決まった第6戦のテレビ視聴率は、関東地区25.1%、広島地区54.9%、札幌地区50.8%だった。なお、昨年のソフトバンクとヤクルトの日本シリーズの対戦カードは人気ランキング合計6で、関東地区のテレビ視聴率は全試合の平均で10.2%だった。優勝が決まった第6戦のテレビ視聴率は、関東地区12.3%、北部九州地区35.5%だった。今年の方が地元の盛り上がり度も大きかったようだ。

(今年の漢字は「北」を予想。他に「女」「金」あたりが候補か。景気悪化を示唆する文字にはならないだろう)

11月1日から募集が始まり、12月12日に清水寺で日本漢字能力検定協会から発表される「今年の漢字」だが、私は「北」を予想する。景気悪化を示唆する文字にはならないだろう。北海道新幹線開業、北方領土交渉進展期待、台風の東北・北海道上陸、北朝鮮のミサイル挑発など「北」に絡んだ出来事が多かった。他に政治面から「女」、五輪から「金」などか候補となるとみる。「今年の漢字」はその年の年末の景況感と一致することが多い。景気動向指数の基調判断は15年5月分から1年超「足踏み」だが、12月7日頃「改善」に戻る可能性がある。それと相俟って、暗い意味の文字ではない漢字が選ばれ、年末には世の中が明るい見通しを持つようになってほしいところだ。
また、日本のGDPもやっと12月8日に2008SNAになる。R&D効果でGDP600兆円に近づきやすくなろう。

(今後、CPI前年同月比が下げ止まれば、適合的期待面から予想物価上昇率の再上昇に寄与するか)

全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合指数の7・8・9月分前年同月比は▲0.5%の下落となった。コンビニは値下げをしないが、スーパーの値下げが目につく。日銀の物価目標の2%上昇から大きく乖離している。消費者物価の調査対象はその地域の販売数量が多い店舗なので、コンビニはあまり採用されていないとみられ、最近の消費者物価指数は意外に実態よりも低めの前年同月比なのかもしれない。
日本の予想物価上昇率は足元の物価動向に左右される適合的期待の部分が大きいと言われる。9月調査日銀短観「企業の物価見通し」の全規模・全産業ベースの「物価全般の見通し」平均は、1年後が+0.6%、3年後が+1.0%、5年後が+1.0%と全て6月調査から0.1ポイント低下。しかし、全規模・全産業ベースの「販売価格見通し」の平均は、1年後が+0.2%、3年後+0.8%、5年後+1.1%と6月調査と同じであった。14年9月調査から続いてきた販売価格見通しの下落基調が、低水準の伸び率ではあるものの3年ぶりに止まったことが物価動向の変化の兆しになることを期待したい。
消費者物価指数に先行する国内企業物価指数の前年同月比は9月分が▲3.2%で、5月分の▲4.4%を底に4カ月連続マイナス幅が縮小してきた。9月分の日銀国際商品指数前年同月比は+4.8%と2年3カ月ぶりにプラスに転じた。10月分は同+14.2%と2ケタの上昇率になった。レギュラーガソリンは10月17日に今年最高値更新。24日にさらに上昇した。今後、消費者物価指数の前年同月比が下げ止まれば、適合的期待面から予想物価上昇率の再上昇に寄与することになろう。デフレとは無縁の広島のセ・リーグAクラス復帰(今年は優勝)と整合的か。9月21日の日銀の「総括的な検証」で予想物価上昇率の動きを3つのフェーズに分けたが、第1フェーズ、第2フェーズは広島Aクラス、第3フェーズは広島Bクラスであった。


(2016年11月2日正午現在)