宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

5月のトピック「見えてきた「いざなぎ景気」の57ヵ月を抜き、戦後単独第2位の景気拡張。不安心理払拭がカギに」

2017年05月02日

(日銀「展望レポート」の景気総括判断がリーマン・ショック前の08年3月以来の「拡大」に上方修正されたのはナゼ?)

12年12月から始まった「アベノミクス景気」は17年2月分まで景気拡張局面だとすると51ヵ月の長さになり、戦後3番目の長さであった86年12月から始まったバブル景気の51ヵ月に並んだ。景気動向指数の3月分でも「改善」判断になるとみられ、単独3位の52ヵ月間の景気拡張期間になっているものと思われる。さらに、今年の11月上旬に発表される9月分まで「改善」が続くと、65年11月から始まった「いざなぎ景気」の57ヵ月を抜き、景気拡張の長さは戦後単独第2位の58ヵ月となる。
景気拡張の長さは戦後単独第2位と言っても「景気が良い」という実感に乏しい人も多いと思われる。これは景気動向指数を使った景気判断は景気局面を谷から山の「拡張」・山から谷の「後退」の2局面に分ける、景気変化の方向性を重視した判断だからだ。緩やかでも上向きの状況が続けば景気拡張局面だ。今回の景気拡張も、昨年秋まで約1年半もの「足踏み」状況が続いたように、極めて緩やかなものだ。
2局面分割の他に景気判断は4局面分割の考え方もある。4局面分割は、正常な水準から出発して、好況(拡大)、後退、不況(収縮)、回復の各局面を経て、再びスタートに戻ると考えるものだ。日本銀行が4月27日発表の「展望レポート」の景気の総括判断を「緩やかな拡大に転じつつある」に上方修正した。「拡大」はリーマン・ショック前となる08年3月以来9年ぶりで、好調な海外経済を背景にした輸出や生産が堅調な中で、判断を一歩前進させたとみられる。景気判断をこれまでの「回復」から「拡大」に強めたのは、景気は上向いている中、日銀の需給ギャップは17年1~3月期で+0.17%と15年1~3月期以来のプラスに転じた(図表1)ことを正常な水準に戻ったとみて、4局面分割的視点から、判断を強めたものと考えられる。

(直近3月の「景気ウォッチャー調査」のキーワード分析からわかる、漠然とだが「不安」が強い状況)

但し、「景気ウォッチャー調査」をみると、直近3月調査の現状判断DI(季節調整値)は前月差1.2ポイント低下の47.4で、先行き判断DI(季節調整値)は前月差2.5ポイント低下の48.1となった。なお、原数値でみると、現状判断DIは前月差2.1ポイント上昇の50.6となり、先行き判断DIは前月差2.5ポイント低下の49.0となった。いずれにしろ、景気判断ははっきりしない状況だ。“景気ウォッチャー調査の見方”に対する内閣府の判断は「持ち直しが続いているものの引き続き一服感がみられる。・・・」となった。「一服感」は1月以降3ヵ月連続して使われている。
景気ウォッチャーの使用している言葉を分析し、景況感の足を引っ張っているものを探るキーワード分析を行ってみると、1月の段階では就任したばかりで大統領令を多発したことなどもあり「米国大統領」が挙げられたが、2月・3月ではそれといったものはない(図表2)。「不安」という言葉が漠然と使われるケースが多い。先行き不安といっても国際情勢や、少子高齢化が進む中での年金等の問題、天候不順への懸念など様々なものがあるだろうが、何に対して不安なのかはっきりしない。具体的に「北朝鮮」や「テロ」などの言葉を挙げた人はほとんどいない状況だ。4月後半の日経経済新聞では「円安」記事数が「円高」記事数を3月前半以来上回り、円高から円安方向の転換を示唆している。

(3月前月比▲2.1%、1~3月期前期比+0.1%のぎりぎりプラス。見かけは弱い鉱工業生産の基調は上向きの訳)

よほどの外生的ショックがなければ、今年秋に「いざなぎ景気」超えを果たしそうなのは、景気の一致系列の最重要指標の鉱工業生産指数が増加基調にあるからだ。スマートフォンの需要は世界的に今年も強い。在庫循環的に、17年1~3月期の出荷の前年同期比は+3.6%とプラス、在庫は同▲3.3%のマイナスで「意図せざる在庫減局面」で生産が増加しやすい。そうは言っても、直近3月速報分の鉱工業生産指数の前月比は▲2.1%と2ヵ月ぶりの減少、最近月をみても2月の前月比は+3.2%と増加だったが、1月は▲2.1%の減少では、見かけからみて生産が強いと思えないという人も多いだろう。
昨年の愛知製鋼の爆発事故、熊本地震などの影響が残り、季節調整値は月々の振れが出やすい状況のようだ。加えて中華圏の春節の時期が昨年比でズレたことも影響していよう。3月分速報値の鉱工業生産指数の前年同月比は+3.3%と5ヵ月連続の増加になった。振れが少なく基調判断に適した前年同月比をみると、生産の増加基調が続いていることが確認できる。経済産業省の基調判断は16年11月分~17年3月分まで5ヵ月連続「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という判断になっている。
経済産業省の鉱工業生産指数の先行き試算値では、4月分の前月比は最頻値で+5.3%、90%の確率に収まる範囲で+4.3%~+6.4%と高い伸び率となっている。製造工業生産予測指数の前月比+8.9%よりは下振れるものの、4月分は高い伸び率が予測されている。昨年4月の熊本地震も影響していそうだ。
先行きの鉱工業生産指数4月分・5月分を製造工業予測指数前月比(+8.9%、▲3.7%)で延長し、6月分を横這いとした場合、4~6月期の前期比は+5.9%の増加になる見込みだ。一方、4月分を先行き試算値最頻値前月比(+5.3%)、5月分は予測指数の前月比で延長し、6月分を横這いとした場合は4~6月期の前期比は+2.4%の増加になる見込みだ。いずれにしてもかなり堅調な前期比になりそうだ。
鉱工業生産指数は、17年1~3月期の前期比+0.1%と若干のプラスだが、3月分確報値の指数が0.2ポイントの低下・前月比▲2.3%までの下方修正にとどまれば前期比+0.1%のプラスの伸び率を維持できる。16年4~6月期以降17年4~6月期にかけ前期比プラスは5四半期連続になる。

(小数点第2位までみると、景色が変わってみえる経済統計が多い)

なお、最近、詳細にみると、新聞の見出しとは異なった面が見える統計が多い。
例えば、「3月分の完全失業率は2.8%で低水準ながら2月分と同水準にとどまった」というのが一般的な見方であろう。しかし、小数点第2位までみると1月分で2.95%、2月分2.84%、3月分2.75%で、ほぼ0.1%ずつ毎月着実に低下しているのである。2.8%は94年6月分以来だが、2.75%としてみると93年11月分の2.74%以来の低水準になる。
また、3月調査の日銀短観、大企業・製造業・業況判断DIは+12で、先行きが+11に低下している(図表3)。このため新聞報道では「海外の政治情勢などが見極めづらく、先行きには慎重な見方も根強い」とやや悲観的な見方が書かれていた。しかし内訳をみると変わった景色がみえる。製造業は素材業種と加工業種の他の項目はなく2つに分かれる。素材業種と加工業種の現状の業況判断DIはともに+12である。製造業全体の業況判断DI+12と一致する。先行きの判断DIは素材業種と加工業種ともに+12で現状と、どちらも変わらない。しかし、両者を合わせた製造業は+11に低下する。「慎重な見方も根強い」と書くほど実態は弱くはないかもしれない。

(粗大ごみからわかるカラーテレビの今後の買い替え需要)

1作業日当たりの粗大ゴミ(東京23区清掃一部事務組合)の前年同月比の推移(図表4)をみると、戦後1番目の長さの「いざなみ景気」の景気局面の終盤の06~07年にプラスの山がある。その後08年のリーマン・ショックの後に09~11年にかけて大きなプラスの山がある。そして消費税引き上げにより、14年~15年にかけてマイナスの谷がある。しかし駆け込み需要が出てもおかしくなかった13年には大きな動きはない。粗大ゴミの動きは耐久消費財の動きを裏面から見るようなものだ。09年~11年にかけ家電エコポイント制度が実施され、家電合計で約4,500万件、中でもカラーテレビは約3,200万件の申請があった。カラーテレビの平均使用年数は8~9年程度のようだ(図表5)。今年3月の調査では約2/3が故障による買い替えだ。09~11年に需要の山があったと考えると、今年や来年あたりからカラーテレビの買い替え需要が出てきて景気の下支え要因になりそうだ。

(今年のGIレースは4月までの6レース中5レースが前年比プラス)

4月30日に行われたJRA天皇賞・春のレースでキタサンブラックが3分12秒5のレコードタイムで連覇を達成した。北島三郎オーナーは「レコードを出すのは私の仕事、馬のレコードも出せました」と喜んだ。今年は競馬場で北島三郎オーナーは持ち歌の「まつり」を歌わなかったが、武豊騎手も史上初の同一G1・8勝という記録達成など様々な記録の「まつり」となった。なお、かつて北島三郎が紅白歌合戦で「まつり」を歌った時は6回とも全て大晦日は景気拡張局面で、「まつり」は景気拡張局面と関係が深い歌だ。今後のレースの勝利時に歌って、不安心理を払拭させ、人々を元気に明るくしてほしい。
天皇賞の売上は前年比+6.6%だった。今年のGIレースはこれまでの6レース中5レースが前年比プラスである。JRAの年初からの売得金の累計額は4月30日現在9,381億円で、前年比+3.6%である。昨年の年間売上前年比+3.4%に続き、6年連続増加に向けて順調な展開となっている。

(内閣府・新調査・4月調査では75%が物価上昇を期待。全国CPI「頻繁に購入」3月分の前年同月比は+3.0%)

ヤマト運輸が宅配便の基本運賃を27年ぶりに値上げすることになった。人手不足でもサービスの質を落とさない一方で、賃上げも値上げもできずにいた日本の運送業が転機を迎えていることの表れだ。今年1月分の宅配貨物取扱個数は前年同月比+12.3%と2ケタになった(図表6)。需要があるのに人手が足りず、サービスの値段を上げざるを得なくなっている。ヤマト運輸の話は人々の物価見通しにプラスに働こう。一方、「デフレ脱却はイリュージョンだ」と言うスーパーの経営者がいる。コンビニでは日用品などの値下げの動きもあり、どっちの動きが勝つかの分岐点だ。
日銀の展望レポートでは、「中長期的な予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いている。各種のマーケット関連指標やアンケート調査結果をみると、上昇しているものもみられるが、総じてみるとなお明確な持ち直しには至っていない。」と慎重な見方だった。しかし、注目度が低いが極めて速報性がある、内閣府「消費者マインドアンケート調査」4月分(4月20日までのデータを集計し4月24日に発表)で、1年後の物価が上がるとみている人の割合(上昇+やや上昇)は75.3%と、16年9月の調査開始以来最大の数字になった(図表7)。4月からのたばこ、オリーブオイルなどの値上げ、5月からのバターやティッシュペーパーなどの値上げの動きも反映されていよう。
丹念に見ると、物価上昇期待の高まりを裏付ける数字が、直近3月分の全国消費者物価指数「品目の年間購入頻度階級月指数」に出てきた。全国消費者物価指数の「品目の年間購入頻度階級月指数」の「頻繁に購入」の3月分前年同月比は+3.0%と14年10月分の+4.1%以来29ヵ月ぶりの高水準になった(図表8)。

(2017年5月2日現在)