ホームマーケット身近なデータで見た経済動向8月のトピック「8月で戦後2番目の景気拡張期間に並ぶ。犯罪・自殺減少は社会の安定示唆、背景に雇用改善」

8月のトピック「8月で戦後2番目の景気拡張期間に並ぶ。犯罪・自殺減少は社会の安定示唆、背景に雇用改善」

2017年8月2日

(全国紙の一面を飾るようなスポーツなどの大記録誕生時は、景気も上向きになることが多い)

全国紙の一面を飾るようなスポーツなどの大記録は、国民に元気を与え、景気も上向きになることが多いようだ。国民栄誉賞の歴代受賞者とその時の景気局面を調べてみると、スポーツ選手の受賞時は概ね景気拡張局面に当たる。一方、歌手、漫画家、作曲家、俳優などの文化人が国民栄誉賞を受賞する時は亡くなられた時が多いせいか、景気は拡張局面と後退局面が半々である。
6月に将棋の最年少棋士、藤井聡太四段の公式戦新記録の29連勝が全国紙の一面を飾ったが、7月には大相撲で横綱・白鵬が1048勝の通算勝ち星記録を樹立したことが全国紙の一面を飾った。16歳で序ノ口をスタートし、年間80勝以上が4度(平成21年・22年・25年・26年)というハイペースで白星を積み上げてきたが、それでも16年以上を要した大記録で、「不滅かもしれない金字塔」と報じた新聞もあった。
将棋の棋士の公式戦の連勝新記録が誕生した年は、不思議と景気拡張局面になっているが、年6場所制以降、完全な形での通算勝ち星の記録更新時は過去3回とも全て景気は拡張局面になっている。今回の横綱・白鵬の更新時も景気は拡張局面だろう。

(年間の取組数が違う大鵬の勝ち星記録を抜いてもあまり騒がれなかった北の湖)

大相撲名古屋場所では横綱白鵬が史上最高となる39度目の優勝と、これまで元大関魁皇が持っていた1047勝という通算勝ち星記録を1050勝まで伸ばした(図表1)。通算勝ち星は元横綱・大鵬が872勝で第8位だ。大鵬がいつそれまでの最多記録を更新したかは、日本相撲協会の広報部に確認したが不明だということだ。大鵬の初土俵は年6場所制になる前の昭和31年秋場所のため、出場した場所数は87場所にとどまっていた。制度が変わったため通算勝ち星の記録も話題にならなかったのだろう。
第5位951勝の元横綱・北の湖が大鵬の記録を更新し873勝目を上げたのは、昭和57年秋場所である。この時は景気後退局面だった。現役時代は強すぎてあまり人気がないと言われた北の湖だが、記録達成の前場所は初の全休。休場明けの秋場所は10勝5敗の芳しくない成績だった。年間の取組数が違う大鵬の記録を抜いてもあまり騒がれなかったようだ。
第4位の964勝記録を持つのは元小結・大潮で初土俵から154場所もかかって北の湖を抜く952勝を上げた。幕内ではなく、十両の取組みでの新記録達成だった。長く現役を続ければ、大横綱の記録をも破ることが出来ると話題になった。昭和62年秋場所でこの時の景気は拡張局面である。

(1000勝の大台が意識された元横綱・千代の富士の頃から通算勝ち星の記録が大きく注目される)

通算勝ち星の記録が大きく注目されるようになったのは、人気があった元横綱・千代の富士の時からのように思われる。大潮を抜いて965勝をあげたのは平成元年の秋場所である。無傷の13連勝で29度目の優勝を決めた取組みで更新した。本人の口から出た1000勝という大台が意識されるようになった。この時はバブル景気の拡張局面である。
若貴と同期の元大関・魁皇が千代の富士の記録を塗りかえたのは、平成23年名古屋場所である。この年は3月に東日本大震災が発生した年で、大相撲も八百長問題の激震に見まわれた年であった。春場所の開催中止、夏場所は技能審査場所となって通常の状態に戻った名古屋場所の4日目に新記録を達成し、明るい話題となった。この年の景気は拡張局面で推移した。このようにみてくると、ファンに注目され期待に応えて通算最多勝利の新記録を樹立すると、見ている人にも元気を与えるからか、景気は拡張局面になるようだ。

(大相撲懸賞本数は名古屋場所としては過去最高、3場所連続で前年同場所比増加)

大相撲名古屋場所は人気横綱稀勢の里の途中休場もあり、懸賞本数は1677本で、期待された今年春場所(大阪場所)の1707本を超える地方場所最高更新はならなかった。しかし、名古屋場所としては過去最高の本数であり、前年同場所比は+13.5%と春場所、夏場所に続き3場所連続で増加となった(図表2)。企業の広告が堅調であり、その背景の企業収益がしっかりしていることを裏付けた。

(有効求人倍率や完全失業率という主要雇用関連指標は6月分でも改善基調)

雇用環境が着実に改善していることを受けて有効求人倍率は上昇基調を続けている。6月分は1.51倍でバブル期最高の90年7月分の1.46倍を0.05ポイント上回り、74年2月の1.53倍以来43年4カ月ぶりの高水準になった(図表3)。正社員の有効求人倍率は6月分で1.01倍と、統計がある04年以降で初めて1倍超となった。有効求人倍率の改善は、有効求職の減少によるよりも有効求人の増加によるところが大きい。「景気ウォッチャー調査」6月調査で「人手不足」を景気判断の理由に挙げた回答から関連DIを作ると、現状判断DIが55.4、先行き判断DIが57.6と景気判断の分岐点の50を上回る。景気が良いから「人手不足」という意見が多い。
完全失業率は2月分から4月分が2.8%で推移した後、職探しが増えた5月分で一時的に3.1%に上昇したが、6月分で2.8%へ再び低下した。「ESPフォーキャスト調査」5月特別調査で「完全雇用」に相当すると思われる失業率を42人のフォーキャスターに聞いたところ、最も多い回答が18人の「2%台後半」だった。最近の2%台後半の失業率が続くことが、先行き賃金上昇につながるとみられる。

(年間刑法犯・認知件数100万件割れ、年間自殺者数22年ぶりに2万2千人割れ、犯罪や自殺などの改善続く)

犯罪や自殺なども改善が続いている。景気拡張が続き雇用環境が改善してきていることが背景にあろう。刑法犯・認知件数をみると、16年は99.6万件と100万件を割り込んだ。前年比は▲9.4%の減少だ(図表4)。17年上期でも減少基調は続き45.1万件、前年比▲7.7%減少だ。年間自殺者数は、金融危機以降3万人台が続いていたが16年に21,898人と22年ぶりに2万2千人割れとなった。17年上期でも前年比▲5.1%と減少傾向が続いている。金融危機後の09年8月には5,798人もいた東京23区内のホームレスは、17年1月には721人になった。減少傾向が鮮明だ。警視庁の16年の遺失届現金は前年比+2.7%増であるのに対し、拾得届現金の前年比は+7.3%の増加だ(図表5)。遺失届現金に対する拾得届現金の比率は近年上昇傾向にある。これらは、いずれも社会の安定傾向を裏付ける明るいデータである。

(「SNS×AI鉱工業生産予測指数」や製造工業生産予測指数からみて7・8月分も鉱工業生産指数は概ね増加継続)

8月14日に発表される実質GDP・4-6月期第1次速報値は個人消費、公共投資などが堅調で前期比年率2%台後半のしっかりした成長率が見込めそうだ。6四半期連続増加になろう。鉱工業生産指数は、前月比の増加と減少を交互に繰り返しながら水準を切り上げてきている。6月分速報値の前月比は+1.6%と2カ月ぶりの増加になった。前年同月比は+4.9%で8カ月連続の増加である。製造工業生産予測指数7月分前月比は+0.8%、8月分前月比は+3.6%となり、増減を繰り返していた最近のパターンから脱却したかたちだ。鉱工業生産指数の先行き試算値では、7月分の前月比は最頻値で▲0.3%、90%の確率に収まる範囲で▲1.3%~+0.7%の伸び率となっている。7月分の前月比は悪くても微減にとどまりそうだ。また、経済産業省のホームページに掲載され始めた「BigData-STATS」の「SNS×AI鉱工業生産予測指数」の7月分の指標値は104.70で、6月分101.70から3ポイント増加している。

(現在の景気拡張期間は8月で「いざなぎ景気」と並ぶ戦後2番目の長さに)

鉱工業生産指数の動きなどから、6月分の景気動向指数・一致CIは前月差上昇になると予測される。製造工業生産予測指数などからみて、鉱工業生産指数は8月分まで増加基調を辿るとみられる(図表6)。景気動向指数・一致CIは、鉱工業生産指数と同様の動きをすることが多いので、8月分まで上昇基調を辿り、基調判断は「改善」が続く可能性が大きいとみられる。このため今月(8月)で、12年12月からの「アベノミクス景気」の現在の景気拡張期間が57カ月となり、高度経済成長期の「いざなぎ景気」と並ぶ戦後2番目の長さになると思われる。

(2017年8月2日現在)