宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

9月のトピック「9月で「いざなぎ景気」超え。緩やかな景気拡張下でも、日経平均株価の上値が重い理由」

2017年09月04日

(6大会連続6度目のワールドカップ出場決定が、15カ月連続月初の日経平均株価・前日比上昇をアシストか)

9月1日の日経平均株価は前日比45円23銭上昇した。これで15カ月連続して、月初の日経平均株価は前日比上昇となった。この連続記録を支えたのは前日の8月31日夜にサッカー日本代表がワールドカップアジア最終予選でオーストラリア代表に勝って、B組1位で6大会連続6度目のワールドカップ出場を決めたことも寄与した可能性がある。20年前の97年11月16日、ワールドカップの初出場を決めた試合が「ジョホールバルの歓喜」だ。今回のオーストラリア戦の24.2%をはるかに上回る47.9%と、深夜のテレビ中継にもかかわらず50%近い視聴率を記録し、日本中が熱狂した(図表1)。しかし、翌朝に飛び込んできたのは、北海道拓殖銀行の破たんのニュース。株式市場が混乱してもおかしくないほどのインパクトだが、そこはワールドカップ初出場の効果が勝った。その日の日経平均は、1200円も上昇した。

(スポーツなどの大記録は、国民に元気を与え、景気も上向きになることが多い)

全国紙の一面を飾るようなスポーツなどの大記録は、国民に元気を与え、景気も上向きになることが多いようだ。国民栄誉賞の歴代受賞者とその時の景気局面を調べてみると、スポーツ選手の受賞時は概ね景気拡張局面に当たる。一方、歌手、漫画家、作曲家、俳優などの文化人が国民栄誉賞を受賞する時は亡くなられた時が多いせいか、景気は拡張局面と後退局面が半々である。
今年6月には将棋の最年少棋士、藤井聡太四段の公式戦新記録の29連勝が、30年ぶりに連勝記録を更新したとして大きな話題になった。84年以降、その当時での連勝新記録が誕生した年は、不思議と景気拡張局面になっている。
7月には大相撲名古屋場所で横綱・白鵬が、これまで元大関魁皇の持っていた記録を上回る1048勝の通算勝ち星の新記録を樹立したことが全国紙の一面を飾った。年6場所制になってから完全な形で記録を更新した元小結・大潮(対象は元横綱・北の湖)、元横綱・千代の富士、元大関・魁皇。これまでの記録更新は全て景気の拡張局面である。なお白鵬は名古屋場所で39度目の優勝を果たし、通算勝ち星記録を1050勝まで伸ばした。

(4~6月期実質GDP11年ぶりの6四半期連続の前期比増加)

4~6月期実質GDP成長率・第1次速報値は11年ぶりの6四半期連続増加になった。外需は6四半期ぶりのマイナス寄与だったが、内需の前期比寄与度が大きかった。
4~6月期の個人消費・前期比は6四半期連続の増加である。個人消費の予告信号灯のひとつである「笑点」の視聴率が、ビデオリサーチ調査の各週視聴率ランキングで「その他娯楽番組」のジャンルで1位になることが4~6月期は2回と、1~3月期の0回に続き少なかったことと整合的だ。日曜の夕方に買い物やレジャーで出かけていた人が相対的に多かったことを示唆しているからだ。実質個人消費の内訳をみると、耐久財の前期比は6四半期連続の増加だ。今後はエコポイントで購入したカラーテレビの買い替え需要等も期待される分野だ。なお、7~9月期も耐久財の前期比は堅調そうだ。猛暑効果でエアコンが売れたこともあって、7月の「景気ウォッチャー調査」の家電量販店・現状判断DIが69.7と、エコポイントや地デジ化の時期に当たる10年10月、11月、11年6月、消費税引き上げ前の駆け込み需要が生じた14年2月、3月に次ぐ統計史上6番目の高い数字になっている(図表2)。また、サービスの前期比はなんと12四半期連続の増加になっている。4~6月期の実質設備投資・前期比は8四半期連続の増加になった(16年7~9月期は前期比0.0007%増の微増だが)。
但し、4~6月期の特殊要因と言える動きもある。4~6月期実質住宅投資には2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に係る選手村宿泊施設が反映されている。実質公共投資は16年度補正予算の効果が大きく顕在化した。なお、外需のマイナス寄与は一時的になりそうだ。GDPのモノの輸出入の類似データでもある日銀実質輸出入をみると、7月分の4~6月期平均比は輸出が1.7%増、控除項目の輸入は0.4%減である。7~9月期の外需は再びプラスに戻りそうだ。

(前月比増減繰り返す生産指数・一致CIも指数水準切りあがり、9月に「いざなぎ景気」超え)

鉱工業生産指数・7月分速報値前月比は▲0.8%と2カ月ぶりの減少になった。6月分が前月比+2.2%の大幅な伸び率だったので、反動的な低下としては小幅である。前年同月比は+4.7%で9カ月連続の増加になった。鉱工業生産指数は、昨年12月分以降、前月比は増減を繰り返しているが前年同月比は増加が継続している。前月比も、移動平均をとるなどして均してみると増加基調が続いている。東日本大震災前後の異なる生産パターンが現在の季節指数に反映されているため、前月比の振れが生じている可能性が大きいとみられる。また、今年はゴールデンウィーク期間中の5月1日が月曜日、2日が火曜日だった影響もありそうだ。
経済産業省が発表している鉱工業生産指数の先行き試算値では、8月分の前月比は最頻値で+1.4%となっている。製造工業生産予測指数前月比+6.0%よりはだいぶ低いがプラスの伸び率が見込まれる。今回、経済産業省は初めて翌々月の9月分の見通しに関して「8月の生産がこの程度の伸びとなれば、9月の生産水準は8月水準に対し横ばいないし微減という程度になるものと思われます」とコメントした。鉱工業生産指数8月分を先行き試算値最頻値前月比(+1.4%)、9月分は前月比▲0.1%の微減で延長した場合は7~9月期の前期比は+0.3%の増加になる見込みだ(図表3)。
鉱工業生産指数の動向からみて景気動向指数一致CIも前月差プラス・マイナスが交互に続くものの、指数水準を切り上げるかたちで、「改善」の判断は少なくとも9月分までは継続しそうだ。この結果、9月に戦後2番目に景気拡張期間である「いざなぎ景気」超えとなり、戦後最長の「いざなみ景気」に挑戦することになりそうだ。景気拡張期間が73カ月の「いざなみ景気」を超え74カ月になるのは、19年1月だ。

(「いざなぎ景気」超えでも、日経平均株価の上値が重い理由)

ここまで景気の拡大を示すデータを見てきたが、株式市場に目を転じると上値が重くなっている。好調な景気動向がマーケットに反映されない背景が「景気ウォッチャー調査」をみるとわかる。前月に比べて下げていた現状判断DIが1ポイント以上上昇し、季節調整値も上昇すると「買い」。逆に上げていた現状判断DIが1ポイント以上下落し、季節調整値も下落すると「売り」、という景気ウォッチャー調査を使った発表日の終値での日経平均株価の売買を行うと、34勝22敗で勝率6割超である。今年は2月に「売り」シグナルがついたままだ。直近7月は現状判断DIが1.1ポイント上昇したが、季節調整値が0.3ポイントとわずかに低下したため「買い」に到らなかった。
「景気ウォッチャー調査」で今年の要因別DIを作成してみると7月調査まではこれといった悪材料はないが「不安」のコメントが多い。「不安」は将来の社会保障や国際情勢などに対し感じている人が多いようだが、漠然としたもののようだ。これまで企業収益の割に設備投資がそれほど出てこなかったり、なかなかデフレからの脱却の実感が沸かなかったりするのは、人々の中に漠然とした「不安」感が強いためであろう。
「先行き判断」で「不安」とコメントした人は、3月は55人だったが、4月で69人と再び増加した。7月も60人と依然として高水準だ(図表4)。7月の現状判断での「不安」は11人と少なめだが、関連DIをみると40.9と景況感の足を大きく引っ張っていることがわかる。7月分で「不安」「政治」などが、マイナス寄与となり全体のDIの足を引っ張らなければ、季節調整値のマイナスはなかったかもしれない。前向きのシグナル点灯のためには「不安」の払拭が必要な局面だろう。

(身近なデータの最近の動向では、天候が懸念材料。景気上昇を抑える可能性があると思われているのは海外要因)

身近な社会現象では8月の台風・雨の悪影響が懸念される。また、「景気ウォッチャー調査」9月8日発表の8月調査では、天候に加え、北朝鮮が8月29日に襟裳岬上空通過の弾道ミサイルを発射したことがどう判断されるか注目だ。なお8月後半の日本経済新聞では円高記事数が円安記事数を43程度上回り、9月前半には円高圧力がかかりやすい状況だ(図表5)。さらに北朝鮮は9月3日に6回目の水爆実験をおこなったため、地政学リスクが一段と高まっている。
東北四大祭りの人出は、今年は仙台七夕が3日目に台風5号の雨により人出が激減したことで、3年ぶりの減少だった。東京の8月の降雨連続記録は8月1日から21日までの21日間で、77年の22日間に次ぐ史上2番目の記録だ。このため天候不順の影響で消費の悪化などを伝える記事が多かった。但し、家電量販店の売上は意外と底堅い。また東京電力サービスエリア内の電力使用量も37℃の猛暑日だった8月9日に、東日本大震災以降最高の5383万Kwを記録した。
オールジャパンのエコノミスト42名に聞いた「ESPフォーキャスト調査」2017年8月特別調査によると、「半年から1年後にかけて景気上昇を抑える可能性がある要因(3つまで)」で2ケタ台の回答になった項目は、「中国景気悪化」27人、「円高」22人、「米国景気悪化」17人、「IT部門(電子部品など)の悪化」15人、「国際関係の緊張や軍事衝突」15人と、主に海外発の要因が懸念されている。国内要因では「国内政治の不安定化」が6月の1人から9人に急増したが、2ケタにはならなかった。
当面は海外情勢にらみで神経質な展開を強いられることになりそうだ。しかし、海外発の「不安」要因が薄らぎ、国内要因に自信が持てる状況になれば、「景気ウォッチャー調査」による日経平均株価の買いシグナルが早ければ10月以降には点灯するかもしれない。

(日経CPINow7日移動平均、8月16日前年比0.472%から、9月1日は0.072%へ0.4ポイント低下の理由)

少し前まで下落基調にあった物価指数が、最近になって変化してきた。7月分の全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合は前年同月比0.5%で6カ月連続上昇した。国内企業物価指数7月分前年同月比は2.6%上昇、企業向けサービス価格指数7月分前年同月比は0.6%の上昇だ。日本の予想物価上昇率は足元の物価指数の動きに影響を受けやすい。主要な物価指数が上昇するにつれ、人々の予想物価上昇率も高まっている。16年9月から始まった消費者マインドアンケート調査では「1年後に物価が上昇する」とみる人の割合が16年9月の58.9%から17年8月に72.9%と増加し、5カ月連続70%台になった(図表6)。人々のデフレマインドが薄れ、需給の改善が意識される中景況感も改善してきた。同調査では半年後の暮らし向きを質問している。「良くなる+やや良くなる」の割合は16年9月に12.9%だったが、17年8月には15.5%へ上昇、一方「悪くなる+やや悪くなる」は35.6%だったものが27.2%へ低下している。
但し、イオンがPB(自主企画)商品「トップバリュ」の食品を中心とした頻度品114品目を8月25日から値下げした。これに対抗し、西友も8月29日から値下げを始めた。「景況感は持ち直しているが、生活者は節約志向を緩めていない」とし、スケールメリットを生かせる大手スーパーがここにきて値下げを打ちした。折角のデフレ脱却ムードに水を差さないか気懸かりだ。日経CPINowの7日移動平均は8月16日に前年比0.472%まで上昇していたが、9月1日は0.072%まで0.4ポイント低下してしまっている。

(2017年9月4日現在)