ホームマーケット身近なデータで見た経済動向10月のトピック「「いざなぎ景気」超えを示唆する日銀短観などの経済指標、大相撲懸賞4場所連続前年比増加などの身近なデータ」

10月のトピック「「いざなぎ景気」超えを示唆する日銀短観などの経済指標、大相撲懸賞4場所連続前年比増加などの身近なデータ」

2017年10月4日

(実質GDPと鉱工業生産指数は4~6月期も前期比増加基調継続。GDPは11年ぶり6四半期連続)

4~6月期実質GDP第2次速報値は前期比年率+2.5%と第1次速報値の同4.0%から鈍化はしたものの、個人消費、公共投資などがプラスに寄与し、11年ぶりの6四半期連続増加となった。

鉱工業生産指数・8月分速報値の前月比は+2.1%と2カ月ぶりの増加になった。7月分の前月比が▲0.8%だったので、小幅な減少のあと、大幅に増加したかたちである。鉱工業生産指数8月分速報値の季節調整値は103.6になった。これは17年4月の103.8以来の水準だ。前年同月比は+5.4%で10カ月連続の増加になった(図表1)。

先行きの鉱工業生産指数9月分を製造工業予測指数前月比(▲1.9%)で延長した場合は7~9月期の前期比は+0.1%の増加になる見込みだ。さらに10月分を製造工業予測指数前月比(+3.5%)で、11月分・12月分を前月比ゼロで延長した場合は10~12月期の前期比は+2.9%の増加になる見込みだ。17年10~12月期まで7四半期連続前期比プラスになる可能性が大きいと考えられる。なお、鉱工業生産指数8月分速報値の103.6を9月分・10月分を製造工業予測指数の前月比で延長すると105.2になるが、これはリーマンショック発生直後の08年10月分107.4以来の水準に戻ることを意味する。鉱工業生産指数の動向は、17年9月に現在の景気拡張期間が「いざなぎ景気」超えをし、戦後2番目の長さになったことを裏付けるものだ。

(9月調査・日銀短観 大企業・製造業・業況判断DI+22は4四半期連続改善、10年ぶりの高水準)

10月2日に発表された9月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+22と6月調査の+17から5ポイント上昇した。大企業・製造業・業況判断DI+22は「いざなみ景気」の07年9月調査以来、10年ぶりの高水準である。なお10月2日の日経平均株価は前日比44円50銭上昇した。これで16カ月連続して、月初の日経平均株価は前日比上昇となったが、この連続記録を支えたのは日銀短観だった可能性がある。

大企業・製造業の業況判断DIは18期連続で「良い」超のプラスとなった。前期から改善するのは4期連続だ。関連データのロイター短観やQUICK短観の前期比の動向を大きく上回る変化となった。9月後半にかけてドル円レートが円安方向に変化したことなどが影響したのであろう。景況感の上向きの動きが続いていることを示す内容となった。

中小企業・製造業の業況判断DIは16年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと12月調査では+1とプラスに転じ、今回17年9月調査で+10と6月調査より3ポイント改善し4期連続プラスになった。+10は06年12月調査+10以来の水準である。一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになった。今回17年9月調査では6月調査の+7から1ポイント改善し+8となり、16期連続でマイナスになっていない。+8は消費税引き上げ直前の駆け込み需要が出た14年3月調査+8以来の水準である(図表2)。非製造業の景況感の良さは雇用環境が良いことと整合的だ。

(雇用判断DI・大企業・全産業▲18で92年2月調査の▲24以来25年7カ月ぶりの水準)

雇用判断DI(「過剰」-「不足」)は人手不足感が一段と強まってきていることを示唆する数字となった。大企業・全産業では▲18で6月調査の▲16より2ポイント不足超が拡大した。92年2月調査の▲24以来25年7カ月ぶりの水準である。一方、中小企業・全産業では▲32で6月調査の▲27より5ポイント不足超が拡大した。こちらも92年2月調査の▲32以来25年7カ月ぶりの水準である。

17年9月調査の17年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+7.7%。一方、17年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲14.1%だった。17年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+4.6%になった。またGDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の2017年度計画・前年度比は、大企業・全産業で+7.5%。一方、17年度の中小企業・全産業で▲7.9%だった。17年度の全規模・全産業では+6.7%になった。

雇用や設備投資に関する指標も明るい。8月分の有効求人倍率は7月分と同じ1.52倍だが、これは74年2月の1.53倍以来約23年半ぶりの高水準である。8月分の完全失業率は2.8%だが、小数点第2位までだと2.75%と、2.7%まであと一歩のところまで来ている。「ESPフォーキャスト調査」2017年5月特別調査によると、「完全雇用」に相当すると思われる失業率は、「2%台後半」が42.9%で一番多い。2.75%程度の水準が継続すると、来年の春闘の賃金引き上げにつながりそうだ。

(8月の景況感の足を引っ張った「長雨」「北朝鮮」)

8月の「景気ウォッチャー調査」の現状判断DI季節調整値は7月と同水準の49.7にとどまった。要因別DIを作成してみると「長雨」関連DIは40.7になり、全体を▲8.9ポイント下回った。回答した景気ウォッチャーは35人なので、0.2ポイント程度、現状判断DIを押し下げたことになろう。また、北朝鮮が日本上空を通過するミサイルを発射したことで、「北朝鮮」関連DIは39.6と全体を▲10.0ポイント下回った。回答数は12人だったが0.1ポイント弱現状判断DIを押し下げたことになる。「長雨」「北朝鮮」が足を引っ張らなければ現状判断DIは景気判断の分岐点の50.0程度になった可能性がある(図表3)。

9月の「消費動向調査」の消費者態度指数(二人以上世帯、季節調整値)は前月から0.6ポイント上昇し43.9となった。上昇は2カ月ぶりだ。8月に関東の長雨や東北・北陸の大雨で消費者心理が悪化した反動が出た。10月10日発表予定の9月の「景気ウォッチャー調査」で天候が落ち着いた反動による現状判断DIの改善が期待される状況だ。

(需給ギャップはプラスに、物価見通しに下げ止まり感は出ている)

8月分の全国消費者物価・生鮮食品を除く総合・前年同月比は+0.7%と、8カ月連続上昇となった。

ESPフォーキャスト調査・9月調査によると、全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合の前年同期比の総平均予測値は、17年4~6月期で+0.4%になった後、見通しでは緩やかに上昇する見込みだ。17年7~9月期は+0.65%、10~12月期は+0.76%、18年1~3月期と4~6月期はともに+0.74%と足踏み状態になった後、7~9月期は+0.81%、10~12月期は+0.85%、19年1~3月期は+0.88%への緩やかな上昇を見込んでいる。

物価上昇率を決める主因の需給ギャップ(GDPギャップ)は内閣府の試算では16年10~12月期0.0%の後、17年1~3月期+0.1%、4~6月期は+0.5%のプラスになった。一方、日銀の需給ギャップは16年7~9月期+0.07%、10~12月期+0.57%、17年1~3月期+0.79%と3四半期連続でプラスになっている。ともにマイナスを脱し、消費者物価指数の上昇要因になるものと思われる。

日本の予想物価上昇率は足元の物価動向に左右される適合的期待の部分が大きいと言われる。少し前まで消費者物価指数の前年比マイナス幅が拡大していた中、物価見通しは下落基調にあったが、最近になって変化してきた。消費者物価指数以外の物価指数では、国内企業物価指数8月分前年同月比+2.9%(消費税の影響を除けば、原油高の影響があった08年10月の+4.5%以来8年10カ月ぶり)、企業向けサービス価格指数8月分前年同月比+0.8%だ。主要な物価指数は前年比上昇した。日経CPINOW・T指数8月は+0.31%になった。但し、スーパーの値下げなどで9月は+0.15%に鈍化した。

9月の内閣府「消費者マインドアンケート調査」で1年後の物価が上がるとみている人の割合(上昇+やや上昇)は76.9%と、昨年9月の調査開始以来最大になった。4月分以降6カ月連続して70%台になっている。9月の日銀短観の「企業の物価見通し」は全規模・全産業でみると概ね横ばいとなった(図表4)。16年前半までにみられた下落基調はおさまり、最近は落ち着いた見通しになっている。

(大相撲の懸賞4場所連続前年比増加、身近な社会現象は引き続き景気の底堅さを示唆)

身近な社会現象は引き続き景気の底堅さを示唆するものが多い。

大相撲秋場所は3横綱が休場、3回目から人気力士の髙安と宇良も休場するなどで懸賞の動向も懸念されたが、結果的に1,757本と2,000本は下回ったものの前年同月比+4.9%の増加となった。これで4場所連続の増加で企業の広告費、またその背後にある企業収益の堅調さを裏付けた(図表5)。秋場所を休場した横綱・稀勢の里が10月2日に全日本力士選手権に出場し、2年連続優勝したことは、九州場所への明るい動きとなった。中央競馬の売得金は10月1日までで年初からの累計の前年比が+2.4%の増加となっている。6年連続の増加に向けてしっかりした動きが続いている。

また東京ディズニーリゾートの17年度上半期の入場者数は前年同期比+3.1%と4年ぶりに前年を上回った。年度の数字も3年ぶりの増加が期待される。佐賀の吉野ヶ里歴史公園は、公的補助金を利用したアイディアなどにより9月の入場者数が57,225名と前年比103.5%増と倍増している。

雇用環境の改善は社会の安定につながっている。警察庁調べの刑法犯・認知件数は2012年には140.3万件だったが、昨年16年は99.6万件と100万件を割り込み今年上半期は7.7%減の45.1万件である。警察庁の遺失届現金に対する拾得届現金比率は21世紀になった01年から12年まで30%台で推移していたが、13年から40%台に上昇、16年は44.4%になっている(図表6)。

(注目される「ESPフォーキャスト調査」の10月調査・特別調査「景気上昇を抑えるかもしれない要因」の結果)

オールジャパンのエコノミストを対象にする「ESPフォーキャスト調査」の8月調査・特別調査として、「半年から1年先に景気上昇を抑えるかもしれない要因」を3つまでの複数回答で答えてもらった。最も多かったのは、「中国景気の悪化」で、同質問に答えた42名中、27名が答えた。次いで「円高」22名、「米国景気の悪化」17名、「国際関係の緊張や軍事衝突」と「IT部門(電子部品など)の悪化」の各々15名が続いた。最近では世界の政治や国際関係の緊張などで市場が混乱するたび、円が逃避通貨として買われることが多いことも「円高」が懸念材料として2番目に挙げられているようだ。「国内政治の不安定化」は9名と一桁にとどまるなど、国内要因の懸念材料を挙げたエコノミストは少なかった。10月調査でも3回目となる同様の特別調査を実施していて、結果は10月10日に公表される。「解散総選挙」や「北朝鮮」情勢の影響をどうみているか、同日発表の9月の「景気ウォッチャー調査」とともに注目したい。

(2017年10月3日現在)