ホームマーケット身近なデータで見た経済動向3月のトピック「景気ウォッチャー模擬売買・日経平均・売りサイン点灯。当面、政策動向や金融資本市場変動の影響を注視。一方、平昌オリンピックの日本勢の活躍などプラスの話題も。桜が21日に開花するかに注目」

3月のトピック「景気ウォッチャー模擬売買・日経平均・売りサイン点灯。当面、政策動向や金融資本市場変動の影響を注視。一方、平昌オリンピックの日本勢の活躍などプラスの話題も。桜が21日に開花するかに注目」

2018年3月2日

(「ESPフォーキャスト調査」によると、法人税引き下げなどで2021年頃に向けて米国の成長率は高まる見込み)

「トランプ大統領の経済政策により2021年頃に向けて米国の成長率は高まるか」という特別調査を、18年2月の「ESPフォーキャスト調査」で実施した。このテーマの特別調査は17年5月調査以来の実施であった。前回は42名のフォーキャスター中、「高まる+やや高まる」が15人、「低くなる+やや低くなる」が13人と判断はほぼ拮抗していたが、今回は38名のフォーキャスター中「高まる+やや高まる」が24人、「低くなる+やや低くなる」が9人と、成長率が高まるとうい意見が大きく増えた。一番の理由は「法人税引き上げなどが決まったから」で、24人が理由として挙げている。次いで14人が「インフラ投資が増えそうだから」と挙げた。

米国の実質GDP前期比年率は17年4~6月期+3.1%、7~9月期+3.2%、10~12月期+2.5%と好調だった。18年1~3月期の「GDPナウ」はNY連銀(2月23日発表)が+3.1%、アトランタ連銀(3月1日発表)が+3.5%となっており(図表1)、米国では1~3月期もしっかりした経済成長が続いているようだ。

(当面は政策の動向や金融資本市場の変動など要注視。スーパーボウル、イーグルス(NFC)勝利は明るい話題)

実体経済はしっかりしているが、金融資本市場は最近波乱の展開が続いている。2月2日発表の1月分雇用統計で平均時給の前年同月比が+2.9%に上昇したことをきっかけに、2月5日にNYダウは1,175.21ドル安と史上最大の下げ幅を記録した。FRB議長がイエレン氏からパウエル氏に代わったばかりのタイミングであり、FRBの利上げペースが速まることを織り込み長期金利が上昇し、株価が下落した。金利差の他に財政面に注目し、米国の双方の赤字を久しぶりに意識する向きもあったようだ。ムニューシン米財務長官が1月24日「弱いドルは貿易や投資機会に関し、われわれにとって良いことだ」という発言をしたことも、貿易赤字に市場の目を向けさせた契機になった可能性もある。3月1日にはトランプ米大統領が鉄鋼とアルミニウムの輸入制限発動の意向を表明したことを嫌気しNYダウは420.22ドル安の大幅安になった。米国は景気が足もと着実に回復、一方、パウエルFRB議長が「米景気が過熱している証拠はない」と述べ、緩やかな利上げが適切だと発言しているにもかかわらず、金融資本市場は大きく変動した。当面は政策の動向や金融資本市場の変動の影響などを注視する必要がある。

なお、米国の「身近なデータ」ではスーパーボウルでNFCに所属するイーグルスが勝ったことは、株価にとって明るい話題である。近年はAFC所属チームが勝っても株価が上昇することが多いが、過去51回の歴史でAFCのチームの優勝の年はNYダウの上昇が6割台にとどまるのに対し、NFCのチームが優勝した時のNYダウの上昇確率は8割台と高い傾向がある。

(日銀の金融政策は年内不変が大勢の見方。しかし一部の異なる見方が海外の投資家に影響を及ぼしているのか)

市場ではいろいろな思惑が出ているが、パウエルFRB議長発言などからみて、FRBは今年予定通り年3回の利上げを淡々と実施する可能性が大きいのだろう。日銀の金融政策は変わらないというのが大勢の見方である。しかし、「ESPフォーキャスト調査」ではあるエコノミストが18年末の長期金利の誘導目標を+0.5%とみていることが注目される(図表2)。こうした見方が海外で認識されると、日米金利差からみて本来円安・ドル高方向に動くはずのドル円レートが不思議な動きをし、それが日本の景気にマイナスの影響を及ぼしかねない。

(「円高」は「中国」に代わり日本の景気の第1のリスクになったが、足もとの落ち着いた動きを示唆するデータも)

「ESPフォーキャスト調査」で2カ月に一度実施している「景気のリスク」に関する調査では、腰折れ要因として多く挙がったのは12月までと同様2月も全て海外要因であった。しかし、1位はこれまでの「中国景気の悪化」に代わり「円高」になった。昨秋の共産党大会後も懸念された不良債権問題はなくIT産業などの明るい面が注目され、「ESPフォーキャスト調査」の中国景気の見通しも昨夏と比べかなり改善した。

一方、足もと12月調査の日銀短観の想定レート(17年度下期で1ドル=109円66銭)を上回る円高になっていることで、「円高」による企業収益悪化が懸念されるようになったのであろう。しかし、18年1月時点の内閣府の調査では、輸出を行っている上場企業の採算円レートは1ドル=100円60銭で、現在の水準は利益の出る水準である(中堅・中小企業の採算円レートは1ドル=106円40銭)。また、実際のドル安レートに若干先行する半月ごとの日経新聞の「円安の記事数―円高の記事数」でも最近は円高超ではあるものの、その差の幅は落ち着いた動きになっている(図表3)、今後の大幅な円高は予想されにくいとみられる。

(1~3月期生産は8四半期ぶり前期比マイナスの可能性。但し15年基準への移行、季節調整替えの見極めも必要)

鉱工業生産指数・1月分速報値・前月比は▲6.6%と4カ月ぶりの減少になった。12月分の生産指数が前月比+2.9%増加した反動的側面も大きい。1月分前月比の輸送機械工業中心の大幅減は、12月下旬に経済産業省がHPに公表するなど事前に予想されていた。なお鉱工業生産指数の前年同月比は+2.7%で15カ月連続の増加になることからみて基調はしっかりしている。1~3月期の前期比を予想するために、鉱工業生産指数2月分を経済産業省の先行き試算値最頻値前月比(+4.7%)、3月分は製造工業予測指数の前月比(▲2.7%)で延長した場合、1~3月期の前期比は▲2.5%と8四半期ぶりの減少になる。17年度の鉱工業生産指数・季節調整値の前月比は奇数月が減少、偶数月が増加になることが多かった。この傾向も1~3月期が弱い数字になりやすい要因だ。現時点では、いつ実施するか未定のようだが、今年は2015年基準への改定が実施される。季節調整替えを含む年間補正も同時に行われる。東日本大震災が起こった11年以前の生産パターンの影響は昨年より小さくなるものと思われる。この点からみて1~3月期の前期比が8四半期ぶりの減少を回避する可能性もないわけではない。15年基準への移行と季節調整替えの影響の見極めもしっかり行う必要があろう。

(生産大幅減で1月分景気動向指数一致CI大幅下降でも、3カ月移動平均の前月比は上昇、判断「改善」継続)

1月分の景気動向指数・一致CIは、生産指数の悪化など受けて前月差大幅な下降になると予測される。しかし一致CIを使った景気の基調判断のポイントとなる3カ月後方移動平均の前月差は+0.1程度のプラスになるとみられ、16カ月連続して「改善を示している」という判断が続くことになろう。1月分の速報値の一致DIは57.1%程度と景気判断の分岐点の50%を6カ月連続上回ると予測される。

こうしたことから、足もとにわかに景気拡張基調が崩れることなさそうだ。但し、4月6日発表予定の、2月分先行DI・速報値は8カ月ぶりの50%割れの可能性が大きく、景気動向指数の足元の動向からは注視が怠れない。

(景気ウォッチャー調査2月に現状判断DI50%割れ。日経平均売りシグナル点灯。主な理由は「大雪」)

1月の景気ウォッチャー調査現状判断DIは、景気判断の分岐点の49.9と僅かに50%割れとなった。景気ウォッチャー調査公表日の終値による日経平均株価模擬売買では、12月から1ポイント以上低下したので、17年7月10日の20,080円の「買いサイン」に次ぐ「売りサイン」が21,890円の水準で出た。日経平均が3月1日には21カ月ぶりに月初で下落となり、21,724円で引けた。1日時点でも160円強の含み差があったが、2日はNYダウの下落を受け大幅下落し、含み益が膨らんだ。キーワード分析で要因ごとに1月調査の関連DIを作ってみると、17年1月時点で多かった「不安」が今年は減少した。これは正月三が日に初詣の人出が17年は増加したのに対し、18年は概ね横這いだった現象にも既に表れていた。

悪材料として目を引くのは「大雪」である。現状判断で41人がコメントしDIを作ると34.8と低水準である。低い「気温」が31人で53.2と、冬物需要を喚起しプラスに働いたのと対照的である。但し、先行き判断で「大雪」のコメントは10人と少なく、関連DIも57.5と良好である。景気ウォッチャーが「大雪」の悪影響は一時的にとどまると見ているようだ。また悪天候により生鮮食品の上昇で「価格or物価」のコメントは多く、関連DIは現状・先行とも40台であり、景気にとって悪材料となった(図表4)。1月分の消費者物価指数でレタスが前年同月比+131.1%上昇したことなどで、消費者に節約志向が出たようだ。

(スギ・ヒノキ花粉の多めの飛散数というマイナス要因を、早い桜の開花というプラス要因で吹き飛ばせるか)

スギ・ヒノキ花粉がほどほどに多く飛ぶと消費にはプラスに働くようだが、あまりに多く花粉が飛んだ年は外出を避けるため消費にマイナスだ。1995年・2000年・02年・05年・09年・11年のような多い年は3月分実質家計消費指数の前年比はマイナスだ。東京都健康安全研究センターのデータから85年~14年の30年間平均値を100とした指数を算出し、東京・大田の17年の花粉飛散数実績をみると105.5で歴代13位だ。消費にはプラスに働いた。18年予想値平均は歴代6位相当の201.6と多い見込みで消費の悪材料になりそうだ(図表5)。

東京(靖国神社)の桜の開花日が、平年の3月26日より5日以上早い3月21日以前になった年は景気後退局面であったことはない。早く春が来ると春物の消費が盛り上がるようだ。春物衣料などの商戦が早まることなどで個人消費の底上げが期待できる。またお花見で明るいムードが世の中に広がることも景気を下支えするのだろう。今春は花粉の飛散が多く、人々が外出を手控えることで消費の抑制要因になることが懸念されるが、東京の桜の開花予想はウェザーニューズ(2月27日発表)が21日、ウェザーマップ(3月1日発表)が22日と早そうだ。スギ・ヒノキ花粉のマイナス要因を、早い桜の開花が花吹雪のように吹き飛ばしてくれることを期待したいところだ。

(2月の明るい話題は、国民に大きな感動と勇気、夢と希望を与えた、平昌オリンピックの日本勢の活躍)

2月の明るい話題は平昌オリンピックで「金」4、「銀」5、「銅」4と合計13個の冬季大会でこれまで最高だった長野オリンピックの合計10個を上回るメダルをとったことだろう。開会式直前の2月9日の日銀平均株価の終値は21,382円62銭で、閉会式が終わった翌日の2月26日の終値は22,183円63銭で約770円上昇した。特に羽生結弦選手と小平奈緒選手が「金」をとった直後の2月19日は前日比428円96銭高と、1月4日に次ぐ今年2番目の上昇幅を記録した(図表6)。羽生結弦選手は昨年11月に右足首を痛めて一時は平昌オリンピック出場が危ぶまれながらも、66年ぶりとなるフィギュアスケート男子2大会連続金メダルを達成した。羽生選手が所属するANAホールディングスの株価は、2月19日に今年最大の上げ幅である92円高を記録した。なお、羽生結弦選手は17年の読売新聞社の「スポーツに関する全国世論調査」好きなスポーツ選手ランキングで、テニスの錦織圭選手、野球の大谷翔平選手に次ぐ第3位になっている。

菅義偉官房長官は3月2日、「羽生氏の今回の快挙は国民に大きな感動と勇気、社会に明るい夢と希望を与え、東日本大震災の復興への力強いメッセージとなる」として、羽生結弦選手に国民栄誉賞を授与することを検討し有識者の意見を聞いた上で決定すると発表した。 決定すれば、2月13日に受賞した、将棋で「永世七冠」を達成した羽生善治氏と、囲碁で七冠独占を2回達成した井山裕太氏に次ぐ受賞になる。国民栄誉賞は、俳優や歌手など文化人が受賞した時の景気局面は拡張・後退が半々だが、スポーツ選手の場合は大記録を樹立したり、世界一になったりというタイミングで受賞することが多いため、ほとんどが拡張局面に当たる。