宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

6月のトピック「1~3月期GDP等のもたつきは一時的で、4~6月期は持ち直しか。良好な雇用関連の身近なデータ。CD初動売上や競馬売上など堅調。ラニーニャ終息に。ロシアW杯での西野ジャパンの活躍に期待」

2018年06月04日

(米国が発動した関税措置を巡る亀裂や、イタリア政治の問題などが、最近の株価・為替の変動要因に)

5月下旬から6月初旬にかけて、日経平均株価は大きく動いた。日経平均株価は5月21日に約3カ月ぶりに23,000円台を一時的に回復した。ドル円レートが前週末の18日と21日に、約4カ月ぶりの円安水準となる1ドル=111円台まで下落したことなどが背景にあった。米国と中国は5月19日に農産物などの米国産品輸入を中国が増やし、対米貿易黒字を大幅に減少させることで合意したと発表。これを受け、米中通商問題が良い方向に進むという期待が市場に広がった。一時的だったが、米中貿易摩擦への懸念の後退や円安などにより、輸出関連企業の業績改善期待の高まりも株価を押し上げた。

しかし、その後、日経平均株価は下落に転じた。トランプ大統領が5月23日に安全保障を理由に自動車の輸入関税引き上げの検討に入ったことや、24日には米朝首脳会談中止(後、予定通り開催に)を発表したことなどが影響した。イタリア政治問題への不安から世界的な株安が波及した5月30日には日経平均株価の終値は22,018円で約1カ月半ぶりの安値だった。取引時間中には22,000円を割り込む場面もあった。ドル円レートは29日に1ドル=108円10銭台まで戻した。イタリアではジュセッペ・コンテ氏が新首相に就任し、ポピュリズム政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」による連立政権が発足した。3月4日の総選挙後、約3カ月の紆余曲折を経て政権はようやく樹立し、政治空白はやっと解消された。株式市場への悪影響も一旦おさまったが、EUに懐疑的な政権の誕生となったことで今後の不透明感もぬぐえない。6月2日に閉幕したG7財務省・中央銀行総裁会議では、米国が発動した関税措置に他の6カ国が懸念や失望を抱いたとする議長声明が出されるなど、貿易摩擦が高まっている。

(5月下旬の日経平均株価下落の動きは、景気ウォッチャー、日経平均売買シグナルに沿ったもの)

但し、これは「景気ウォッチャー調査公表日の終値による日経平均株価模擬売買」のシグナルに沿った動きなので、驚くには値しないと思われる。景気ウォッチャー調査の現状判断DIは2月8日発表の1月分で49.9と12月分より4ポイント下落した。1ポイント以上の変化でそれまでの上昇・下落の流れが変わった時に売買のシグナルが点灯する。2月8日の終値で「売りシグナル」が点いた。その後、現状判断DIは2月分48.6を底に3月分48.9、4月分49.0と緩やかながら上昇したが、1ポイントには届かず、「買いシグナル」は5月時点で点灯していない(図表1)。その点から見て、23,000円台を長く維持する力はまだなかったのだろう。現状判断DIが前の月を1ポイント以上上回るしっかりした上昇になるまでは、日経平均株価は、何らかのショックがあると、もたついた動きになりやすい傾向があると言える。

(1~3月期、日銀短観、鉱工業生産、実質GDPと国内主要経済指標は軒並みもたつきという報道相次ぐ)

3月調査の日銀短観で大企業・製造業・業況判断DIが8四半期ぶりに前回に比べ悪化した。1~3月期の鉱工業生産指数の前期比が8四半期ぶりにマイナスに転じ、1~3月期実質GDP(第1次速報値)が9四半期ぶりに前期比でマイナス成長に転じた。4月初めから5月半ばにかけて発表されたこれらの主要統計を表面的にみると、高度経済成長時の「いざなぎ景気」を抜いて継続している戦後2番目の長さの景気拡張局面がいよいよ変調をきたしたのではないかと一般の人々が考えてしまっても不思議ではないだろう。しかし、寒波・大雪といった天候要因などの一時的な要因がもたつきの原因だった。また、弱いと言われた指標にも底堅さがある。

例えば、3月調査の日銀短観では大企業・製造業・業況判断DIは+24と前期から2ポイント悪化した。但し、「良い」が「悪い」を20ポイント以上上回るという高水準は継続している。+24は12月調査の見通し+21より3ポイント改善している(図表2)。つまり想定していたより良かったということになる。また6月までの先行き見通しも+20と20台を維持していることから、息の長い緩やかな景気拡張局面が継続していることを示唆する数字と言えよう。

(「ESPフォーキャスト調査」4月調査の景気懸念材料第1位は「円高」。ドル円レートの先行指標に若干変化も)

「ESPフォーキャスト調査」は昨年6月から偶数月に「半年から1年後にかけて景気上昇を抑える(あるいは景気を反転させる)可能性がある要因」を特別調査として、フォーキャスターにひとりあたり3つまで回答してもらっている。直近の4月調査では景気上昇を抑える懸念材料第1位は「円高」で39人のフォーキャスターが指摘した。

なお、「円高」が懸念材料第1位になったのは、3月後半に一時1ドル=105円を割り込んだ直後の調査ということも影響したようだ。内閣府の今年1月時点の調査では、上場企業(全産業)の採算円レートは1ドル=100円60銭だが、中堅・中小企業(全産業)では1ドル=106円40銭である。その後、米国10年国債利回りが3%台をつけるようになった5月半ばには1ドル=110円前後まで円安方向に戻ったことで落ち着いてきている。6月4日の東京市場寄付きは1ドル=109円台だ。ドル円レートの先行指標である、日経新聞の「円安の記事数-円高の記事数」の動向からは目先落ち着いた動きが期待される(図表3)。

(4~6月期のGDPなどの経済指標は、4月の関連統計からみて持ち直しそう)

5月末に発表された4月分の主要経済指標からは、8月13日に発表される4~6月期の日本のGDP統計の持ち直しが読みとれる。個人消費の供給サイドの関連データである耐久消費財出荷指数4月分の対1~3月分平均比は+10.6%の増加になった。非耐久消費財出荷指数は同+2.1%の増加だ。まだ5・6月分について予断を持つことなく見る必要はあるが、4月分の好スタートから判断すると、4~6月期第1次速報値では個人消費の前期比はプラスの伸び率になる可能性が大きいだろう。

設備投資や輸出といった主要項目もプラスの伸びになりそうだ。

(実質賃金前年比連続改善などの明るい経済指標が出れば、消費者マインドも明るい方に変化か)

但し、1~3月期の経済指標の弱さが、まだ尾を引いている消費者心理指標のようなものもある。例えば、内閣府の消費者マインドアンケート調査で「暮らし向き(半年後)」判断の「良くなる」「やや良くなる」の合計の最近の動きは12月分の23.4をピークに低下し、4月分は13.4と、この調査が始まったばかりの16年9月分の12.8、10月分の12.6以来の低水準になってしまった。5月分で0.4ポイント持ち直したものの13.8とまだ低水準である。同様の動きをしているものとして、内閣府の5月消費動向調査の消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)が、前月から0.2ポイント上昇して43.8となり、6カ月ぶりに前月を上回ったことが挙げられよう。

消費者心理のもたつきには、寒波の影響で生鮮野菜が高く実質賃金が2月分まで3カ月連続減少していたことなどが響いていよう。実質賃金の前年比マイナスはこの冬には弱いデータの代表として報じられることが多かった。名目の現金給与総額の前年同月比は1月分+1.2%、2月分+1.0%と1%台にはなっていたが、実質賃金のデフレーターには全国消費者物価指数・持家の帰属家賃を除く総合が使われている。この前年同月比が生鮮野菜高騰の影響で1月分+1.7%、2月分+1.8%と高い上昇率だったため、実質賃金の前年同月比はマイナスだった。しかし3月分以降は寒波の影響がおさまり、3月分の実質賃金は+0.7%と4カ月ぶりのプラスに転じた(図表4)。春闘の賃上げも3%には届かなかったものの、まずまずの伸び率になった。今後発表される4月分の実質賃金・前年同月比が2カ月連続上昇するなど、雇用・賃金が堅調であることが徐々に認識されるようになると、消費者マインドも明るい方に変化すると思われる。

(引き続き良好な雇用指標、金融機関の店舗強盗、自殺者数も引き続き改善)

完全失業率を小数点第2位まででみると、2月分から4月分まで3カ月連続2.5%と低水準で推移している。有効求人倍率は1月分1.59倍、2月分1.58倍、3月分1.59倍、4月分1.59倍である。1.59倍は74年1月の1.64倍以来の高水準である。

雇用環境の良さは金融機関の店舗強盗などの社会指標にも表れている。1月分・2月分と0件で、3月分は3件、4月分も20日までで2件で、年初からの合計は5件にとどまっている。年間で26件と少なかった昨年の4月20日までの累計7件よりも少なく一段と改善している。また、自殺者数は17年まで8年連続減少。経済生活問題で亡くなる方が減っている。自殺者数は今年に入っても減少傾向にあり、1~4月の前年同期比は5.3%減である。

雇用環境の改善は人手不足につながり、その対応策の設備投資増加につながる。18年度設備投資計画は日銀短観でみると、3月時点としてはかなり堅調なものになっている。GDP統計の設備投資の概念に近い「ソフトウエア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの設備投資」の18年度計画の前年度比は大企業・全産業で+2.7%である。3月時点ではまだ計画が固まっていない企業が多い中小企業・全産業では▲10.8%とマイナスであるが、それも含めた全規模・全産業でみると+2.0%と、3月時点で既にプラスの計画となっている。日経新聞の2018年度設備投資当初計画調査では全産業(1,091社)の前年度比は+16.7%(図表5)、人手不足対応やネット通販対応などから小売業の前年度比は+42.1%の伸び率になっている。

(景気の底堅さを示唆するものが多い、身近なデータ。ロシアW杯での日本代表の下馬評を覆す活躍に期待)

身近なデータをみても景気の底堅さを示唆するものが多い。5月中旬のエルニーニョ監視指数・海面水温基準偏差は▲0.1℃となっている。気象面では、春の間にラニーニャ現象が終息し、今年の夏は平常状態になる見込みだ。

芸能面では、4月25日発売の乃木坂46の新曲『シンクロニシティ』初動売上が111.6万枚と景気の分岐点である50万枚を大幅に突破した。5月23日発売のKing&Princeの『シンデレラガール』初動売上は57.6万枚とこちらも景気の分岐点である50万枚を超えた。

スポーツ面では、中央競馬の売上(売得金)は年初~5月27日の累計で前年比+1.8%、7年連続増加へ向けて順調に推移している。直近のGⅠレース6月3日安田記念の売得金は前年比+8.5%である。

ロシアW杯がいよいよ6月14日に開幕となる。五輪と並ぶ一大イベントだけに、経済への影響は小さくない。投資家心理を通じて株式市場にも影響を与えるようだ。代表例は「ジョホールバルの歓喜」だ。97年11月16日に行われたアジア最終予選で日本代表が勝利し、W杯初出場を決めた。日本時間深夜零時を回った試合だったが、視聴率(ビデオリサーチ・関東地区)は47.9%と歴代13位と高かった。17日の日経平均は約1,200円上昇し、当日朝に流れた北海道拓殖銀行の破綻という悪材料を打ち消す形になった。男子の日本代表がW杯の決勝トーナメント1回戦に進出したのは10年のパラグアイ戦と02年のトルコ戦の2回ある。視聴率は歴代6位、10位と高いが、いずれも敗戦のため翌日の株価は下落した。サッカーW杯の優勝国の実質GDP成長率を前年と開催年で比較してみると、86年アルゼンチン以降14年ドイツまで8回連続して開催年の方が、成長率が高い。人気スポーツであるサッカーで、自国の代表が大活躍することが経済面でも大きなプラスになるのだろう。西野ジャパンを成田空港で見送ったファンは約150人と前回ブラジル大会の700人を下回り、前々回の南アフリカ大会の70人に次ぐ少なさだったという(図表6)。ブラジル大会は1次リーグ敗退だったが、南アフリカ大会は16強となった。下馬評を覆しサッカー日本代表が活躍してくれることを期待したい。