宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

7月のトピック「保護主義の高まりなどが景況感の足を引っ張るも、足元の景気の底堅さは続く」

2018年07月03日

(「ESPフォーキャスト調査」6月調査が挙げる景気腰折れ材料。2月まで第1位「中国景気の悪化」は第3位)

日本の景気は昨年9月に、戦後2番目の景気拡張期間である「いざなぎ景気」を超えた後、天候要因などで1~3月期の実質GDPがマイナス成長になるなど、もたつく場面はあったものの拡張局面が続いている。しかし、万一景気の腰を折る要因があるとすれば、それは何か。「ESPフォーキャスト調査」では昨年6月から偶数月に、「半年から1年後にかけて景気上昇を抑える(あるいは景気を反転させる)可能性がある要因」を特別調査として尋ねている。具体的には、フォーキャスターに11項目プラス自由回答枠の中から、ひとりあたり3つまで選択してもらっている。今年の4月調査では大きな変化がみられた。概ね第1位の懸念材料だった「中国景気の悪化」が第3位になった。直近6月調査でも第3位である。中国景気は昨秋の共産党大会の後もしっかりした動きが続いており、懸念材料に挙げる人が少なくなっている。

なお、「ESPフォーキャスト調査」では2・5・8・11月調査と3カ月おきに特別調査として、中国の製造業PMI(国家統計局公表)の四半期単位の先行き見通しを「上昇(50超)」「横ばい(50程度)」「下降(50未満)」の3択で尋ねている。直近の結果である5月調査では前回2月調査に比べ「上昇」が増加し、「下降」が減少した。18年いっぱいは各四半期とも「上昇」の回答が最も多い状況だ。中国景気は当面は底堅い動きが続くものと見込まれている。但し、過剰債務問題が根底にあり、加えて最近エスカレート気味の米中通商問題の動向によっては、景気が下振れするリスクがあるため、次回8月調査の結果は要注目だろう。

(景気腰折れ材料。第1位「円高」、第2位「保護主義の高まり」)

最新の調査結果である6月調査の「景気上昇を抑える」懸念材料第1位は「円高」である。39人中24人のフォーキャスターが指摘した(図表1)。内閣府の今年1月時点の調査では、上場企業(全産業)の採算円レートは1ドル=100円60銭、中堅・中小企業(全産業)では1ドル=106円40銭である。1ドル100円に近い「円高」は日本経済の悪材料になるが、5月から6月にかけてのドル円レートは1ドル108円台から111円台の狭いレンジでの安定推移となっていて、「円高」が今現在、悪材料になっているわけではない。

第2位は「保護主義の高まり」で22人である。前々回2月調査では4人だったが、トランプ大統領が鉄鋼・アルミ関税引き上げに言及した直後の調査である4月調査で20人に跳ね上がった。秋の中間選挙を意識したトランプ大統領の動向からみて当面「保護主義の高まり」が上位に挙げられそうだ。なお、「ESPフォーキャスト調査」7月調査では特別調査として、「トランプ米大統領の経済政策と米国景気の持続性」について尋ねる予定なので、7月9日午後に公表されるその結果も注目される。

(懸念材料として国内要因を挙げる向きは少ない)

国内要因は調査開始から2ケタになったことがない。最大は4月調査で7人となり、総選挙直前の調査だった昨年10月調査の7人と並んだ「国内政治の不安定化」だ。安倍首相の総裁3選に暗雲がかかったことで、アベノミクスの政策変更への懸念が出ためだろう。しかし6月調査で「国内政治の不安定化」を挙げたフォーキャスターはゼロになった。世論調査の内閣支持率の持ち直しの動きを、「ESPフォーキャスト調査」がいち早く伝えたかたちだ。

(7月2日の日経平均株価は「保護主義の高まり」警戒で4月17日以来の2万2000円割れ)

米国の対中追加関税が7月6日に発動される予定であり、目先マーケットはそれに絡んだ米・中の要人発言などに敏感な動きとなりそうだ。早速7月2日には「二日新補は荒れる」という株式相場の格言通りに、日経平均株価が前日比492円安となり、4月17日以来の22,000円割れとなった。中国・上海総合指数の下落、人民元安などで市場心理が悪化したとみられる。また、メキシコ大統領選挙でトランプ政権に対し強硬姿勢をとる新興左派政党「国家再生運動」のロペスオブラドール元メキシコ市長が当選したことも、懸念材料になったようだ。

(日経平均株価下落の動きは、景気ウォッチャーの日経平均売買シグナルに沿ったもの)

但し、22,000円割れは「景気ウォッチャー調査公表日の終値による日経平均株価模擬売買」のシグナルに沿った動きなので、驚くには値しないと思われる。景気ウォッチャー調査の現状判断DIは2月8日発表の1月分で49.9と12月分より4ポイント下落した。1ポイント以上の変化でそれまでの上昇・下落の流れが変わった時に売買のシグナルが点灯する。2月8日の終値で「売りシグナル」が点いた。その後、現状判断DIは2月分48.6を底に3月分48.9、4月分49.0と緩やかながら上昇したが、1ポイントには届かなかった。5月分では47.1と16年9月以来の水準に低下した。「買いシグナル」は6月時点で点灯していない(図表2)。現状判断DIが前の月を1ポイント以上上回るしっかりした上昇になるまでは、日経平均株価は、何らかのショックがあると、もたついた動きになりやすい傾向があると言える。

(日銀短観6月調査、もたつき感あるも、業況判断DIのレベルは大企業・中小企業とも悪くない)

6月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+21程度と3月調査の+24から3ポイント低下した。12年12月調査以来5年半ぶりの2四半期連続の悪化で16業種中、鉄鋼や非鉄金属など10業種が低下した。3月調査時点から円相場は円安・ドル高方向に進んだものの、資源価格上昇に伴う原料高の影響や米国のトランプ政権による保護主義政策などの影響が悪材料として出た。但し、21期連続して「良い」超のプラスであり、息の長い緩やかな景気拡張局面が継続していることを示唆する数字と言えよう。6月調査の大企業・製造業の業況判断DI+21は3月調査の「先行き」見通し+20より1ポイント改善した。足元の景況感が予測よりは良かったということだ(図表3)。大企業・製造業の「先行き」業況判断DIをみると、+21と「最近」の+21と同水準が見込まれている。6月調査の18年度想定為替レートは107円26銭で前回3月調査の109円66銭や、足元の実際の為替の動き(1ドル=110円台程度)より円高に置いている。このため、為替レートの今後の動向次第では業況判断DIが上振れることも予想される。

中小企業・製造業の業況判断DIは16年9月調査で▲3と3四半期連続マイナスになったあと16年12月調査では+1とプラスに転じ、17年12月調査で+15と91年8月調査+20以来の水準になった。18年3月調査でも+15で変わらなかったが、今回6月調査では+14とやや低下した。なお、6月調査の「最近」+14は3月調査の「先行き」見通しが+12になるとみていたのに対し、2ポイント上回った。足元の景況感が予測より改善するという結果である。一方、中小企業・非製造業の業況判断DIは、13年12月調査で+4と、92年2月の+5以来21年10カ月ぶりのプラスになっていた。その後今回6月調査の+8まで19期連続でマイナスになっていない。+8は3月調査時点の「先行き」+5を3ポイント上回った。予測よりは良かったということになる。

(日銀短観6月調査としてしっかりの設備投資計画。GDPに近い指数では全規模・全企業9.1%増)

6月調査の18年度の大企業・全産業の設備投資計画・前年度比は+13.6%。一方、18年度の中小企業・全産業の設備投資計画・前年度比は▲11.8%だった。18年度の全規模・全産業の設備投資計画・前年度比は+7.9%になった。6月調査としてはしっかりした計画と言える。ソフトウェア投資額と研究開発投資額は、18年度計画・前年度比は製造業・非製造業と大企業・中堅企業・中小企業を掛け合わせた6カテゴリー全てで増加となっている。このためGDPの設備投資の概念に近い「ソフトウェア・研究開発を含み土地投資額を除くベースの全産業・全規模の設備投資」の18年度計画・前年度比は大企業・全産業で+11.0%、中小企業・全産業で▲4.7%だった。全規模・全産業では+9.1%になった。18年度は設備投資の伸びが期待される(図表4)。

6月調査の日銀短観は、原材料高、保護主義の台頭などで、景況感がやや悪化したものの、水準に注目すると意外と底堅さも感じられる。先行きに関する不透明感が大きく、企業の判断も慎重にならざるをえない状況だが、詳細に見ると、設備投資計画などはしっかりで、引き続き企業の景況感の堅調さや、緩やかな景気拡張継続を示唆する数字が散見される内容と言えそうだ。

(4~6月期の生産は2四半期ぶり前期比増加の可能性大で7~9月期も増加見込み)

鉱工業生産指数・5月分速報値・前月比は▲0.2%と4カ月ぶりの減少になった。一方、前年同月比は+4.2%で19カ月連続の増加になった。大きな動きをチェックするために、鉱工業全体で縦軸に在庫の前年比を、横軸に出荷の前年比をとった在庫サイクル図をみると、18年1~3月期では出荷の前年比が+1.5%、在庫が同+3.9%と一時的に「在庫積み上がり局面」に入っていたが、18年4~5月分では出荷の前年比が+3.4%、在庫が同+2.5%と「在庫積み増し局面」に戻っている(図表5)。

鉱工業生産指数の先行き試算値でみると、6月分の前月比は最頻値で▲0.1%。90%の確率に収まる範囲で▲1.1%~+0.9%となっている。さらに、このケースで、先行き7月分を前月比(+0.8%:製造工業予測指数の前月比)で、8・9月分を各々前月比0.0%で延長すると7~9月期の前期比は+0.8%の増加だ。7~9月期の前期比は今のところ2四半期連続の増加になる可能性が大きいようだ。

(5月分景気動向指数の基調判断も20カ月連続「改善」か)

景気動向指数を使った基調判断は、16年10月分でそれまでの「足踏みを示している」から「改善を示している」に上方修正された。その後16年11月分~18年4月分まで同じ最高の基調判断で推移してきている。7月6日発表の5月分の一致CI前月差は4カ月ぶりの下降になってしまうが、一致CIの3カ月後方移動平均の前月差は+0.07程度と2カ月連続の上昇になると予測する。このため20カ月連続して「改善を示している」という同じ判断が続くことになろう。景気の基調はしっかりしているとみられる。戦後最長の「いざなみ景気」に今年の12月で並ぶという見方に変わりはないだろう。

(景気の底堅さを示唆するものが多い、身近なデータ。記録を更新する雇用指標を受け、自殺者数も引き続き改善)

完全失業率は5月分で2.2%まで低下した。92年10月分以来25年7カ月ぶりの低水準である。有効求人倍率は1.59倍でしばらく足踏み状態だったが、5月分で1.60倍に上昇した。1.60倍は74年1月の1.64倍以来の高水準である。

雇用環境の良さは自殺者数の減少に表れている。経済生活問題で亡くなる方が減っているのだ。自殺者数は昨年まで8年連続で減少し、今年に入ってもその傾向が続いている。1~5月の前年同期比は▲5.9%の減少である。

(関東甲信地方の梅雨明けは史上初の6月。ロシアW杯での日本代表の下馬評を覆す活躍は国民に元気を)

身近なデータをみても景気の底堅さを示唆するものが多い。気象関連では、6月中旬のエルニーニョ監視指数・海面水温基準偏差は+0.3℃になっている。今春にラニーニャ現象が終息している。気象庁によると、今年の夏は平常状態になる見込みだという。関東甲信地方の梅雨明けは6月29日で観測史上初の6月になった。梅雨入り・梅雨明けとも平年より早いケースは昨年に次ぎ2年連続だ。1951年から昨年まで12回あるが、景気局面の拡張・後退確率は通常と同じでニュートラルである。

芸能面では、5月23日発売のKing&Princeの『シンデレラガール』初動売上57.6万枚に続き、5月30日発売のAKB48の新曲『Teacher Teacher』の初動売上が166.1万枚と景気の分岐点である50万枚を大幅に突破した。景気の分岐点である50万枚を超える動きが続いている。

スポーツでは、ロシアW杯で日本は決勝トーナメント1回戦でFIFAランキング3位のベルギーと対戦、一時2-0でリードしたが、惜しくも逆転負けとなった。今回の日本代表への期待は、開幕前は大きくはなかったが、下馬評を覆し西野ジャパンが活躍したことで盛り上がった。深夜の試合となったが、6月19日の第1戦のコロンビア戦2-1で勝ち前回ブラジル大会でのリベンジを果たした。この視聴率(ビデオリサーチ・関東地区)は48.7%とサッカー中継歴代10位の高視聴率を記録し、翌日20日の日経平均は276円上昇した。株価がもたついた6月後半での最大の上げ幅を記録した(図表6)。ロシアW杯での日本代表の下馬評を覆す活躍は国民に元気を与えたと思われる。