宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

9月のトピック「堅調な設備投資、雇用に水差す悪天候、保護主義の台頭。景気は辛うじて「改善」基調維持か」

2018年09月04日

(法人企業統計・設備投資約11年ぶりの高水準。4~6月期GDP第2次速報値は大幅に上方修正か)

9月3日発表の法人企業統計で設備投資が強かった。18年4~6月期の法人企業統計調査の全産業(金融業・保険業を除くベース)の設備投資(ソフトウェア投資額を除くベース)の前年同期比は+14.0%と1~3月期の前年同期比+2.1%から11.9ポイント伸び率が高まり、7四半期連続の増加になった。前期比は+6.9%で4四半期連続の増加になった。また、ソフトウェア投資額を含むベースでは4~6月期の全産業の前年同期比は+12.8%だった。07年1~3月期の+13.6%以来、約11年ぶりの高水準だった。

このことからみて、9月10日発表の4~6月期GDP第2次速報値は、第1次速報値の前期比+0.5%、前期比年率+1.9%から設備投資を中心に、前期比年率+2.9%程度へと大幅に上方修正されるとみた。7四半期連続の前期比増加の設備投資は、大きく上方修正されよう。18年度の設備投資計画は、日銀短観・政策投資銀行ともしっかりした内容だったことと整合的な結果となった。

過去最高水準の経常利益を背景に企業の設備投資はしっかりしてきている。電気自動車や自動運転などに関連した研究開発や能力増強投資の動きが出ている。半導体や半導体製造装置の能力増強投資も強い。非製造業でも人手不足に対応した効率化投資や、インバウンド対応、都市開発投資などの動きが出ているようだ。

(雇用所得環境改善傾向でも、賃金伸びや有効求人倍率を評価しない論調が景況感改善しにくい一因に)

雇用環境は良好だ。完全失業率は5月分で92年10月分以来25年7カ月ぶりの低水準である2.2%まで低下した。その後新たな職探しをする人が増え、7月分で2.5%に戻ったが依然として低水準であることに変わりはない。有効求人倍率は7月分で1.63倍に上昇した(図表1)。1.63倍は74年1月の1.64倍以来の高水準だ。

雇用環境の良さは自殺者数の減少に表れている。経済生活問題で亡くなる方が減っている。自殺者数は昨年まで8年連続で減少し、今年に入ってもその傾向が継続している。1~7月分の前年同期比は▲6.2%の減少である。

賃金もこのところ改善しているが、世の中の評価は低い。賃金のデータである毎月勤労統計はこれまで調査対象を全面的に入れ替えてきたが、昨今の統計改革の流れで最終的には3分の1ずつ調査企業を入れ替えるローテーションを実施することになった。今年は過渡期で調査対象の事業所が半分入れ替わる。このためサンプル数は少ないが共通事業所のデータがわかる。直近6月分の(名目)現金給与総額は前年同月比+3.3%だが、共通事業所のデータでは+1.3%であることから、2%も過大評価だという意見が多い(図表2)。しかし実質で+2.5%の増加なので2%を差し引いても実質は+0.5%の増加である。名実ともに緩やかにプラスになっても、どうせ過大評価だとされる。これは有効求人倍率が改善しても、団塊の世代のリタイアで分母の求職者が減少したため上昇しているとして、求人数の改善を無視する見方が声高に報じられる状況と共通する。雇用所得環境が改善傾向にあっても景況感が冴えない状況が続いている。正当に評価すべきだろう。

(「平成30年7月豪雨」が「景気ウォッチャー調査」7月分現状判断DIの16年9月以来の低水準を招いた)

足もとの景況感は悪化しているものが多い。たとえば「景気ウォッチャー調査」だ。直近7月分の現状判断DI季節調整値は46.6で前月から1.5ポイント低下し、16年9月の46.3以来の低水準になった。また、原数値は47.5で前月から0.7ポイント低下した。6月28日から7月8日にかけて、西日本を中心に北海道や中部地方など全国的に広い範囲で記録された集中豪雨を、気象庁は「平成30年7月豪雨」と命名した。この豪雨が今夏の景況感に大きく影響したとみられる。

「景気ウォッチャー調査」は毎月25日から月末までが回答期間だ。直近7月調査では1,851人が回答、回答率90.3%だった。「豪雨」関連・現状判断DIは33.9(回答者175人)と多くの人が悪い回答をした(図表3)。猛暑のプラス効果にも「豪雨」は水を差したようだ。本来、家電量販店、スーパー、コンビニ、タクシー運転手などを中心に特需が起こって猛暑は景気にプラスに働くことが多いが、「猛暑」関連現状判断DIが46.8(回答数179名)と50を下回った。「豪雨」の影響を大きく受けた中国地方の「猛暑」関連現状判断DIが32.4になるなど弱いためだ。「豪雨」の影響をあまり受けていない東日本の地域では60台・50台のDIが多かった。「猛暑」関連「悪くなっている」のコメントで、中国地方のテーマパーク(営業担当)は「平成30年7月豪雨災害の影響で交通網が復旧しておらず、連日の猛暑により客の動きは悪い」としている。様々なキーワードで関連DIを作ると、現状判断DIが前月に比べ下落した主因は「豪雨」であるとわかる(図表4)。

(8月の「消費者マインドアンケート調査」によると、半年後の暮らし向き判断、過去最低を更新)

7月の豪雨に続き8月は台風の発生数が24年ぶりの9個と多かった。悪天候が景況感の重石になっていそうだ。JR東日本が夏休みに毎年実施しているポケモンラリーは前年より実施者が多かった(図表5)。しかし、東北四大祭り、金沢兼六園、長良川の鵜飼い観覧船・乗船人員、五稜郭タワー来塔者など、天候の影響を直接受ける観光地では8月分の前年同月比がマイナスになったところが多いようだ。

8月22日に発表された8月の「消費者マインドアンケート調査」によると、半年後の暮らし向きについて、「やや悪くなる」と「悪くなる」を足した比率は41.8%となり、7月の38.9%から増加した。8月の結果について、景気ウォッチャー調査と同様の手法でDIを作成すると42.2となり、調査開始時の16年9月に付けた42.8を下回り、過去最低を更新した。

(景気腰折れ懸念材料8月1位は「保護主義の高まり」、米通商政策、自動車関税引き上げ見込む向きは少ない)

「ESPフォーキャスト調査」では偶数月に、「半年から1年後にかけて景気上昇を抑える(あるいは景気を反転させる)可能性がある要因」を特別調査としている。フォーキャスターに11項目プラス自由回答枠の中から、ひとりあたり3つまで選択してもらっている。

8月調査で第1位は「保護主義の高まり」で30人である。2月調査では4人だったが、トランプ大統領が鉄鋼・アルミ関税引き上げに言及した直後の調査である4月調査で20人に上がり、6月調査では22人だった。最近注目度が急上昇の要因である。秋の中間選挙を意識したトランプ大統領の動向からみて当面「保護主義の高まり」が上位に挙げられそうだ。

第2位は「中国景気悪化」の20人である。6月で第1位だった「円高」は19人で第3位に低下した。ドル円レートの先行指標である日本経済新聞の「円安の記事数―円高の記事数」はこのところ減ってきてはいるが、依然として若干円安に対する記事が多い状態が続いており、先行きも現在の落ち着いた状態が継続しそうだ。

なお、「ESPフォーキャスト調査」2018年8月では別の特別調査で、米国と各国の貿易摩擦がいつまで続くかを聞いた。「2019年4月以降も続く」が22名と最も多く、「米中間選挙直後まで」が9名と続いた。米国の通商政策がどこまで保護主義的になるかでは自動車関税の引き上げまで見込む向きは14人と少ない。但し、自動車関税引き上げが追加されると日本の成長率が低くなると見るのは35人と大多数である。

(鉱工業生産指数・7月分速報値・前月比は▲0.1%と3カ月連続の減少。7~9月期前期比減少も)

鉱工業生産指数・7月分速報値・前月比は▲0.1%と3カ月連続の減少になった(図表6)。輸送機械工業、はん用・生産用・業務用機械工業、鉄鋼業等の8業種が前月比減少となった。「鉄鋼業」については、経済産業省はアメリカの鉄鋼輸入に対する追加関税の影響はやはり出てきていると分析した。また豪雨や台風の影響で工場操業に支障が出たようだ。

先行きの鉱工業生産指数8月分を先行き試算値最頻値前月比(+1.2%)で、9月分を前月比(+0.5%:製造工業予測指数の前月比)で延長した場合は、7~9月期の前期比は▲0.4%と2四半期ぶりの減少になってしまう。また、先行きの鉱工業生産指数8月分と9月分を製造工業予測指数の前月比(+5.6%、+0.5%)で延長した場合は、7~9月期の前期比は+2.5%になる。こちらのケースでは7~9月期の生産は2四半期連続の前期比増加になる。総合的にみて、7~9月期は前期比横這い圏になりそうだ。鉱工業生産と同様な動きになることが多い実質GDPの、7~9月期の動向も懸念される状況だ。

(7月分景気動向指数・一致CIは前月差下降、3カ月後方移動平均前月差も下降だが、辛うじて改善維持か)

9月7日発表の7月分の景気動向指数・一致CIは前月差▲0.7程度と3カ月連続の下降になると予測される。また7月分一致CIは、3カ月後方移動平均の前月差は下降が見込まれる。しかし、▲0.60程度にとどまり▲1.02に届かないため、7月分で「改善を示している」の判断は22カ月連続となろう。さらに製造工業予測指数からは8月分、9月分では一致CIの前月差がプラスに転じる可能性が大きいと見込まれる。綱渡り状況ながら、18年12月にはいよいよ戦後最長である「いざなみ景気」の73カ月連続に並ぶ可能性が大きい状況に変わりはないだろう。