ホームマーケット身近なデータで見た経済動向12月のトピック「米中貿易摩擦などへの懸念、自然災害などで足元の経済指標は弱含みだが、12月に戦後最長の景気拡張期間タイとなったことが、2月初めに確認される局面に。時代の変わり目の「記念消費」に期待」

12月のトピック「米中貿易摩擦などへの懸念、自然災害などで足元の経済指標は弱含みだが、12月に戦後最長の景気拡張期間タイとなったことが、2月初めに確認される局面に。時代の変わり目の「記念消費」に期待」

2018年12月3日

(自然災害が多発などで弱含んだ7~9月期主要経済指標。実質GDPは第2次速報値で減少率大幅拡大に)

景気拡張局面は今月18年12月に「いざなみ景気」に並ぶ戦後最長期間となるとみられる。しかし、一般紙の一面に紹介されるような主要経済指標の7~9月期分のデータは弱含んだものが多い。例えば、日銀短観・大企業・製造業・業況判断DIは9月調査まで3四半期連続低下(次回は12月14日に12月調査が公表予定)、7~9月期鉱工業生産指数(15年基準)は前期比▲1.3%だ。7~9月期実質GDP第1次速報値は前期比年率▲1.2%だった。12月3日に公表された法人企業統計で大企業の設備投資の前年同期比が大幅に鈍化したため、12月10日公表の7~9月期実質GDP第2次速報値の減少率が大幅に拡大することになりそうだ。7~9月期の弱さの背景は、米中貿易摩擦など保護主義の高まりや、中国景気への懸念といった不安要素の高まりに加え、自然災害が多発したことが原因とみられる。悪い数字がさらなる心理的悪材料になることが懸念される。

(「景気ウォッチャー調査」10月調査と9月調査を比べてわかる、自然災害の悪影響の剥落)

自然災害の悪影響はだいぶ薄れてきているようだ。「景気ウォッチャー調査」10月調査と9月調査で現状判断・関連DIを作成し比較してみる(図表1)と、改善が遅れているのは地震の影響だ。「地震・震災」関連DIは10月39.7(コメントしたウォッチャーは68人)で景気判断の分岐点の50をだいぶ下回っているが9月の34.5(同140人)からは幾分改善した。それ以外の項目は50を上回り、回復が景況感にプラスに働いていることがわかる。例えば、「台風」関連DIは10月55.6(同93人)で9月の41.4(同194人)から改善した。「豪雨」関連DIは10月56.5(同31人)で9月の41.8(同49人)から改善した。

(訪日外客数とよく似た動きの「外国人orインバウンド」関連・現状判断DIに持ち直しの兆し)

今夏の地震や台風といった度重なる自然災害の影響で、これまで順調に高い伸びを示してきたインバウンド需要も一時的に変調をきたした。しかし、10月になると訪日外客数・前年同月比は+1.8%と低い増加率ながら増加に転じ、改善の兆しが見えてきた。「景気ウォッチャー調査」の「外国人orインバウンド」関連・現状判断DIは訪日外客数とよく似た結果となり、こちらも改善の兆しが見える。4月~10月調査をみると、DIは夏場に弱含んだ。大阪北部地震があった6月調査でDIは50.0となり、「平成30年豪雨」が発生した7月調査で45.1と50割れとなった。8月調査で52.7と一旦持ち直したが、9月調査で37.3と再び50を割り込んだ(図表2)。

10月調査では近畿地方中心に「やや良くなる」という判断が増え、DIは53.7と4月調査の59.3以来の水準に戻った。天候等が落ち着いた11月調査(12月10日発表)でも50超が期待でき、訪日外客数も増加基調に戻りそうだ。

(10・11月分の消費者態度指数と、「消費税・増税」関連・先行き判断DI10月分50割れ。10月の自殺者増)

二人以上世帯の消費者態度指数・季節調整値11月分は42.9と10月43.0から僅かながら2カ月連続の低下となった(図表3)。16年12月(43.8)以来約2年ぶりの低水準で、消費者心理はパッとしない状況にある。内閣府は基調判断を「弱い動きがみられる」と据え置いた。なお、11月調査の調査基準日は11月15日である。実施まで1年を切ったことで来年10月実施の消費増税に関する世の中の関心が強まったことが、年金収入などが抑制されている高齢者を中心に消費者マインドの悪化につながっているようだ。「景気ウォッチャー調査」の「消費税・増税」関連・先行き判断DIをみても、9月は56.8(コメントしたウォッチャーは44人)と住宅関連中心に前向きな評価が多かったものの、安倍首相が10月に予定通り消費増税を実施すると発言したことなどから10月は47.1(同157人)と景気判断の分岐点の50を下回った。

なお、警察庁が発表している10月分の自殺者数は前年同月比+5.5%と増加に転じた。17年8月の+8.9%以来の増加率である。1~10月までの累計前年比は▲5.2%とマイナス基調にあったので、一時的な現象かどうか要注視である(図表4)。

(6週連続第1位のあと、3週連続低下基調の「笑点」の視聴率。12月分の消費者態度指数の改善を示唆か)

日曜日の夕方に日本テレビ系列で放映されている「笑点」の視聴率がビデオリサーチ(関東地区)の「その他娯楽番組」のジャンルで第1位になることが多いと、消費活動が抑制されている可能性がある。買い物やレジャーに出かけずに、夕方「笑点」を見る人が通常よりも多くなっていることを意味するからだ。9月最終週で第1位になり、10月は4週とも全て「笑点」が第1位となった。11月第1週まで6週連続で第1位だった。好天に恵まれた10月28日と11月4日も視聴率が20%台と高かったことが気懸りだった。但し、「笑点」の視聴率は11月第2週には視聴率15.9%で第3位に低下し改善の兆しをみせた。その後、11月18日までの週で3位(関東地区視聴率13.9%)、11月25日までの週で7位(関東地区視聴率13.6%)と低下基調になっている。調査基準日が毎月15日の消費者態度指数は12月分で改善するとみられる。

(10月分鉱工業生産指数前月比+2.9%と大幅に2カ月ぶり増加、10~12月期の前期比は増加の見込み)

鉱工業生産指数・10月分速報値・前月比は+2.9%と2カ月ぶりの増加になった。15年を100とした季節調整値の水準は105.9と15年基準(13年1月以降)の最高水準である。また、前年同月比は+4.2%で2カ月ぶりの増加になった(図表5)。北海道胆振東部地震や、2度の台風の上陸の影響などの自然災害がマイナスに作用した9月分の反動が大きいとみられる。自然災害の影響などを考慮せずに機械的に求める、経済産業省の鉱工業生産指数の先行き試算値では、10月分の前月比は最頻値で+0.9%。90%の確率に収まる範囲で▲0.1%~+1.9%となっていた。前月比+2.9%は、範囲内の上限を1ポイント上回る高い伸び率である。

鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると11月分の前月比+0.6%、12月分の前月比+2.2%の増加基調が継続する見込みである。但し、過去のパターン等で修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、11月分の前月比は最頻値で▲2.1%。90%の確率に収まる範囲で▲3.1%~▲1.1%と減少の見込みとなっている。

先行きの鉱工業生産指数11月分を先行き試算値最頻値前月比(▲2.1%)で、12月分を前月比+2.2%(製造工業予測指数の前月比)で延長した場合は、10~12月期の前期比は+2.0%の増加になる。また、先行きの鉱工業生産指数11月分と12月分を製造工業予測指数の前月比(+0.6%、+2.2%)で延長した場合は、10~12月期の前期比は+3.9%の増加になる。どちらのケースでも7~9月期の生産の落ち込みが一時的だったことが確認されよう。なお、米中貿易戦争の影響などは足元の生産統計にはあまり出ているようにはみられないが、今後どうなるかは不透明要因も多く、予断を持つことなく注視していくことが大切な状況に変わりはない。

(19年2月7日。戦後最長の景気拡張期間タイとなる12月分で景気動向指数「改善」の判断に戻る可能性大)

12月7日に発表される10月分景気動向指数・速報値の一致CIは9月分の下落幅を相殺し大きなお釣りがくるような、かなりの前月差上昇幅になるとみられる。自然災害が落ち着いたことで職探しに出る人が増え求職者増による低下となった有効求人倍率1系列以外は生産関連や消費関連の6系列が前月差プラス寄与になろう。

一致CIを使った景気の基調判断をみると、16年10月分でそれまでの「足踏みを示している」から「改善を示している」に上方修正された。その後16年11月分~18年8月分まで23カ月連続して同じ最高の基調判断で推移してきていた。しかし、18年9月分で「足踏みを示している」へ24カ月ぶりに基調判断が下方修正された。

「足踏み」がもう一段下方修正されると「(下方への)局面変化」となり、景気後退の可能性が出てくる。当月の前月差と7カ月後方移動平均の動向が判断基準になる。10月分のCI一致指数の前月差は大幅なプラスに転じたとみられることから下方修正の可能性は当分ないとみられる。

景気動向指数の基調判断が「改善を示している」という最上位の景況判断に戻るには、3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が上昇、かつ当月の前月差の符号がプラスであることが必要だ。10月の前月差が大幅上昇なので11月分が仮に9月分の大幅下降並みとなっても3カ月後方移動平均は上昇となろう。12月分の前月差が0.1ポイント上昇すれば、10~12月分で3カ月連続3カ月後方移動平均という条件を満たすことになり「改善を示している」に戻る。12月分速報値が公表されるのは19年2月7日。戦後最長の景気拡張期間タイとなる12月分で「改善を示している」という判断に戻ることになる。

(今秋も景気拡張局面継続を裏付けた「ソフトバンク対広島」日本シリーズの対戦カード)

今年の日本シリーズの対戦カードが「ソフトバンク対広島」になったことは、景気拡張局面継続を示唆する身近なデータだ。まず広島のセ・リーグ3連覇はデフレ脱却のシンボルだ。金融危機で景気が悪化した98年から12年まで市民球団である広島はAクラスになったことがない。景気の悪さが戦力補強の妨げになったのだろう。親会社からの支援がある他の5球団は全てこの期間に優勝している。アベノミクス景気が始まった13年以降は僅差でBクラスとなった15年を除き18年まで全てAクラスだ。

不思議なことに日本シリーズの対戦カードは、景気と密接な関係がある。86年以降17年までのデータでみると、セ・パ両リーグの人気ランキング(シーズン前に発表される読売新聞の世論調査をもとに作成)の合計数が2~5のケースは18回あるが、そのうち景気拡張局面は17回で、景気後退局面は1回だけである。逆に不人気球団が日本シリーズに絡んだランキング合計が7以上(実際には9以上はなく、7~8)の年は景気拡張局面が3回、景気後退局面が5回と景気が悪い年が多い。なお、3回の拡張局面はいずれも下剋上絡みの対戦カードが実現した年である。判官贔屓の日本人なので、下剋上で日本シリーズ出場を果たした球団に対して、にわかファンになり応援する人も多いのであろう。人気ランキング合計が6の年は景気拡張局面3回、後退局面3回である。合計2~5と合計7~8の中間の結果である。

今年の対戦カードはセ・リーグが人気3位の広島、パ・リーグはリーグ優勝したが人気4位の西武ではなく、リーグ2位から下剋上で進出した人気1位のソフトバンクだった。ランキング合計は7ではなく4となり、下剋上絡みの対戦カードは景気拡張局面というジンクスも満たした。日本シリーズの関東地区の視聴率は平均で11.1%と西日本のチーム同士の対戦でも2桁を記録した。

(時代の変わり目の「記念消費」の効果は大きい。1~3月期前期比ランキング1位89年、2位00年)

19年は消費税引き上げによる駆け込み需要の反動で一時的落ち込みあろうが、それなりの対応も取られるので景気後退は回避すると見るのがコンセンサスだ。「ESPフォーキャスト調査」18年11月調査によると、1年以内に景気の山が来る確率は35.5%と低い。ラグビーW杯、改元などの効果は景気にプラスに働きそうだ。

現在のGDP統計は80年まで遡れる。81年から18年までの1~3月期の前期比を高い順の並べると、1位は平成に改元された89年、2位はミレニアムの00年だ。どちらも個人消費、設備投資がしっかりした伸び率になっている(図表6)。時代の変わり目の「記念消費」の効果は大きいのであろう。今回は5月に改元される。19年4~6月期の成長率に、注目したい。