ホームマーケット身近なデータで見た経済動向5月のトピック「新型コロナウイルス感染拡大で、3月・4月のデータで大幅な悪化続く。景気ウォッチャー調査のDIでは初の0.0も出現。そうした中でJRA売得金・年初から累計前年比がマイナスながら粘り腰を発揮」

5月のトピック「新型コロナウイルス感染拡大で、3月・4月のデータで大幅な悪化続く。景気ウォッチャー調査のDIでは初の0.0も出現。そうした中でJRA売得金・年初から累計前年比がマイナスながら粘り腰を発揮」

2020年5月7日

(3月景気ウォッチャー調査:3つの景況判断DI(現状、先行き、現状水準)が全て過去最悪)

3月の景気ウォッチャー調査などは、新型コロナウイルスの感染拡大が経済に大打撃を与えていることを示唆するものになった。

現状と先行き、現状水準の3つの景況判断DIがそれぞれ前月から悪化、いずれも過去最悪の数字となった(図表1)。新型コロナウイルス感染拡大で、景気判断が一段と厳しさを増したのが見て取れる。なかでも、飲食関連の現状水準判断DI(季節調整値)は0.0となった。0.0という数字はこの統計史上初めてだ。原数値は4.0で、季節調整をかけると0.0になった。DIは5段階の景気判断を、50.0が景気判断の分岐点(仮に全員が「不変」だと50.0)として、全員が「良」とした100.0~全員が「悪」とした0.0までの指数(DI)に変換したものだ。飲食関連の数字は季節調整値とは言え、「やや悪い」という回答もなく、全員が「悪い」と答えたことを意味する、極めて厳しい数字と言える。

(緊急事態宣言の延長観測が流れていた4月調査では景況判断DIの一段の悪化も懸念)

3月の景気ウォッチャー調査で現状判断DI(季節調整値)は前月比13.2ポイント低下して14.2になった。リーマンショックで世界的経済危機に陥った2008年12月の19.0を下回り、季節調整値で遡れる2002年1月以降で最悪の水準だ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛やサプライチェーンの混乱で、個人消費や企業活動が停滞し、景気に大打撃となっていることが明らかになった。先行き判断DIは5.8ポイント低下の18.8と、2008年12月の21.3を下回って過去最低になった。現状判断DIは良くなった、悪くなったという方向性のデータであるが、現状判断には良い、悪いという水準についてのデータである現状水準判断DIというものもある。この指数の最低はこれまで2009年2月の16.4だったが、3月ではそれを0.1ポイント下回り、16.3の最低記録を更新した。

調査期間は3月25~31日で、緊急事態宣言が発出される前のタイミングだったので、緊急事態宣言の延長観測が流れていた4月25日~30日が調査期間の、5月13日発表の4月調査では現状判断DIの一段の悪化も懸念される。

 (「百貨店」「飲料関連」「旅行・交通関連」「レジャー施設関連」DIは1ケタ。東海道新幹線前年比9割減)

景気ウォッチャー調査で、「新型コロナウイルス」という言葉が判断理由に初めて登場したのは2020年1月調査だった。現状判断で「新型コロナウイルス」についてコメントしたウォッチャー数は1月97人、2月788人から3月998人に拡大し、先行き判断で「新型コロナウイルス」についてコメントしたウォッチャー数は1月345人、2月1,059人から3月1,085人に拡大した。「新型コロナウイルス」関連現状判断DIをつくってみると、1月29.1、2月17.5から3月は12.0へ悪化した。「新型コロナウイルス」関連先行き判断DIは1月29.9、2月20.4から3月は16.3へと悪化した。「新型コロナウイルス」関連判断DIは現状、先行きとも全体の判断DIを下回っている。なお、先行き判断で新型コロナウイルスについてコメントしたウォッチャー数の1,085人には全体の59%にのぼる。こうした数字から「新型コロナウイルス」の悪影響がどんどん広まってきていることがわかる。

新型コロナの影響を強く受けると思われる「百貨店」「飲料関連」「旅行・交通関連」「レジャー施設関連」という業種の現状判断DI(原数値)が1ケタに落ち込んだ。景気判断が1ケタとなったのは史上初めてで、驚くべき数字と言えよう。緊急事態宣言の発令による小売店や飲食店などの営業自粛で、4月調査ではさらなる悪化もあり得ると思われる(図表2)。

JR東海によると、1月の東海道新幹線の輸送量は前年比+3%の増加と堅調だったが、2月の東海道新幹線の輸送量・前年比は▲8%と減少に転じた。3月は新型コロナウイルスの感染拡大による国内旅行や出張の自粛で前年比▲59%と大幅な下落、4月は26日までで▲89%と、なっている(図表3)。JCB消費NOWの前年同月比は3月分で▲7.2%とマイナスに転じ、4月前半では▲18.0までマイナス幅を拡大させている(図表4)。

(3月分鉱工業生産や小売売上高は大きく減少。巣ごもり需要背景にスーパーやドラッグストアは増加維持)

3月分の主要経済指標は、悪化したものが多かった。鉱工業生産指数・3月分速報値・前月比は▲3.7%と2カ月連続の低下になった。15年を100とした季節調整値の水準は95.8と、13年1月分(94.8)以来の指数水準である。部品供給の問題などで新型コロナウイルス感染症拡大の影響が出ている。停止となっている工場もある。経済産業省は基調判断を「一進一退ながら弱含んでいる」から「低下している」に下方修正した。12年9月以来7年6か月ぶりに「低下」という表現を使った。四半期ベースでは、19年10~12月期の98.0から、20年1~3月期は98.4と前期比+0.4%上昇した。但し、20年1月分、2月分が低水準だった19年10~12月期を上回っていた影響が大きく、3月分で生産は大きく低下した。折角の緩やかな持ち直しの流れが、突然の新型コロナウイルスの逆流により押し戻されたかたちだ。

商業動態統計によると、3月の小売業販売額が小売店の休業などで前年同月比▲4.6%と大きく落ち込んだ。百貨店が同▲32.7%大幅に低下した。訪日外国人客が減ったほか、大都市で外出自粛が広がった影響が出た。一方、巣ごもり需要を背景に飲食料品のほか日用品や衛生用品の販売が増えたのが、スーパーやドラッグストアだ。スーパーは+2.5%、ドラッグストアは+7.5%の増加となった。

(3月分の完全失業率は2.5%に上昇。ESPフォーキャスト調査では今後3%近くまで上昇の見込み)

3月分の完全失業率は2.5%に2月分の2.4%から上昇した。完全失業率は、その後1%台前半の低い水準で推移した。第一次石油危機以降の完全失業率の推移をみると、石油危機が勃発した1973年こそ1.3%だったが、74年1.4%、75年1.9%へと上昇し、76年には2.0%と2%台に乗った。2%台の完全失業率は76年から94年まで続く。極大値は86年、87年の2.8%だった。バブル景気のピークの91年に2・1%だった完全失業率は、その後バブルの崩壊とともに上昇基調となり、02年に史上最悪の5.4%を記録した。完全失業率はその後の景気回復とともに、07年には3.9%まで低下したものの、08年のリーマンショックで09年と10年は5.1%と再び01年から03年にかけてしか記録していない5%台になってしまった(図表5)。

その後、11年から13年までは4%台、14年から16年までは3%台であったが、17年に2.8%と94年2.9%以来23年ぶりの2%台まで低下した。18年、19年は2.4%だった。92年の2.2%以来の低水準である。戦後最長かそれに近い長さの景気回復局面が継続した影響である。今年は、新型コロナウイルス感染拡大対応としての経済活動自粛の影響が、完全失業率の上昇要因になりそうだ。ESPフォーキャスト調査4月特別集計によると回答したエコノミスト24名の平均予測値は、20年4~6月期2.78%、7~9月期2.88%、10~12月期2.84%である。月次データでみると3%近くまで上昇する可能性があるという予測だ。

(年初から3月までの自殺者累計4,805人、前年比▲6.8%減少、2万人を切る可能性があったが・・・・・)

自殺の理由は、家庭問題、病苦、勤務問題、男女関係、精神障害と様々だが、経済生活問題も多く、景気との相関もみてとれる。警察庁のデータで自殺者の推移をみると、円高不況といわれた86年をピークに景気の回復とともに低下し、景気の山である91年まで減少基調であった。バブル崩壊とともに、92年に自殺者は増加した。その後93年・94年は景気の持ち直しとともに若干自殺者は減少したが、96年・97年と再び増加した。金融危機の影響が出て初めて自殺者が3万人の大台に乗った98年からは長い間悪化基調が続き、03年には過去最悪の3万4,427人となった。⒒年まで3万人台が続き、日本の自殺者は3万人台と言うのが常識化してしまった。12年に15年ぶりに3万人割れとなり、昨年まで8年連続減少してきた。今年は3月暫定値までで3か月連続前年同月比減少、年初からの累計4,805人、前年比▲6.8%減少で、このままのペースでいくと2万人を切る可能性があった(図表6)。しかし、新型コロナウイルス感染拡大で、微妙な状況になった。雇用悪化、自殺者の増加といった事態を回避するため、適切な政策が迅速にとられる必要があろう。雇用調整助成金の弾力的な活用などが求められる。企業経営者も、安易な雇止めや解雇を避ける努力が必要な局面だろう。

(無観客レースとなっているJRA。売得金・年初からの累計・前年比マイナスだが、マイナス幅縮小と粘り腰見せる)

「平成」の31年間の特徴を表すデータとしては、名目GDPとJRA(日本中央競馬会)売得金が挙げられる。両者の相関係数が、平成31年間では0・80と高い。平成元年(89年)と2年(90年)はバブル景気の終盤であった。名目GDP暦年の成長率は7%台を記録した。平成3年(91年)にバブル景気は後退局面を迎える。それ以降、名目成長率は大きく鈍化するが、減少となるのは、金融危機の影響を受けた平茂10年(98年)以降だ。15年(03年)までの6年間は12年(2000年)を除いてマイナス成長である。平成16年(04年)から19年(07年)の4年間は僅かな増加に一旦は戻るが、リーマンショックによる不況の影響で平成20年(08年 )、21年(09年)そして23年(⒒年)と、再び減少に戻ってしまった。しかし、24年(12年)以降31年(19年)までは増加基調が継続している。

競馬の売上高は不況になると伸びるとみる向きもあるが、事実は違う。収入が減ったので、ギャンブルで一儲けしようと考える人も少しはいるのだろうが、やはり景気が良く、収入も伸び、懐具合が良い方が競馬の売上高も伸びるようだ。

JRA(中央競馬会)の売得金の暦年ごとの前年比をみると、まず平成の初めの3年間(元年~3年、89年~91年)は2ケタの増加になった。その後伸び率が鈍化し、平成4年(92年)以降は1ケタの前年比が続いた。ついに平成7年(95年)には▲1.1%と初めての減少を記録した。平成8年(96年)、9年(97年)と一旦は増加に戻ったが、金融危機の影響で名目GDPの成長率と同じク10年(98年)から再び前年比は減少に転じ、23年(11年)までの14年間減少基調が続いた。24年(12年)からは持ち直し8年連続して増加が続いてきた(図表7)。

令和2年(20年)の売得金・年初からの累計金額の前年比は2月9日までで∔2.3%だった。その後、新型コロナウイルスの影響もあり、徐々に鈍化するものの、2月23日まではプラスの伸び率だった。マイナスに転じたのは2月29日から無観客レースとなった3月1日までの週である。そこから入場者は週を追うごとにマイナス幅を拡大し、4月26日の週の累計で前年比▲55.9%になった。ネット・電話でしか馬券が購入できなくなったため、売得金も当初は減少傾向で3月22日の週までの累計で、▲5.5%まで悪化した。しかし、そこから粘り腰を見せる。4月26日の週の累計で前年比▲4.6%まで戻した(図表8)。藤田菜七子騎手の女性初の100勝などの明るい話題が後押しをした面もあろう。