宅森昭吉のエコノミックレポート

REPORT

4月のトピック「機械的景気の基調判断は夏場まで足踏み、
G7の財政出動や消費増税先送りへの期待も高まる」

2016年04月01日

株安・円高が、景気ウォッチャー調査2月調査での景況感の下振れの主因

「景気ウォッチャー調査」2月調査で景気に影響を及ぼす要因のキーワード分析を行うと、「株価」や「為替」に関するコメントの影響が大きいことがわかる。先行きDIでは「株価」について118人、「為替」については89人の景気ウォッチャーがコメントした。各々の関連DIは39.5、39.0といずれも景気判断の分岐点50を10ポイント超下回り、マーケットの大幅な変動が景況感の悪化材料になったことがわかる。  例えば1月末から2月前半のドル円レートの変化幅は、日銀がマイナス金利導入を決めた1月29日の121円台から2月11日の110円台まで約11円もある。昨年2015年は変化幅が1年間で10円ちょうどだった。約半月で昨年の変動幅を上回るボラタイルな動きだった。一方、先行き判断に関する中国関連のコメント数は46にとどまり、関連DIは43.5であった。昨年の8月調査でコメント数が176、関連DIが37.4であったことに比べ、足元はそれほど悪影響を及ぼしていないことがわかる(図表1)。

また先行き判断でマイナス金利に触れた景気ウォッチャーは98人で良い・悪いの見方は分かれるが、「変わらない」と「やや悪くなる」がともに39人と多かった。借入れ金利の低下が見込めるため住宅販売には良いが、銀行預金が減ってしまうのではないかというように、不安や誤解が多いこともわかる。ちなみに日銀が3月25日に公表した「5分で読めるマイナス金利」には以下のようなやりとりが載っている。

Q:「(個人の預金金利は)マイナス金利にはならなくても少しは下がるでしょう?」
A:「普通預金金利は0.02%だったのが0.001%になりました。」
Q:「それで消費が悪くなったりしない?」
A:「100万円預けて1年間の利息が200円だったのが10円になったということです。消費を悪くするほどの規模ではありませんよね。」
Q:「もともと200円しかもらえなかったんだ。それがひどいんじゃない?」
A:「そのとおりですね。100万円預けた時の利息が1000円未満になったのは1999年。もう15年以上、預金金利はとても低くなっています。でもそれは『デフレ』だったからで・・・」
先行きマイナス金利が人々にきちんと理解され、「借得金利」としてのプラス面がしっかりと意識されることを期待したい。

日経の為替記事が示唆した円高方向への動き、最近は円高の圧力緩和?

半月を1期間として日経新聞の円安の記事数から円高の記事数を引く。具体的には(「円安」の記事数+「ドル高」の記事数)から(「円高」の記事数+「ドル安」の記事数)を引くという方法で求めた記事の差は、実際のドル・円レートにやや先行する。
15年10月後半では「円安」の記事の方が176件多くなった。11月18日に1ドル=123円台の円安を記録した。その後は相対的に円高の記事が多くなる傾向にあった。16年1月前半では円安の記事の方がわずか1件多いにとどまった。1月後半では102件と円安の記事が一時的に増えたが、2月前半には59件、円高の記事が多くなる。その動きを反映し、2月後半からのドル円レートの期間平均が110円台前半になる。2月後半は82件、3月前半は56件、3月後半は42件と円高の記事がその後も多い状況が続いているが、数字は小さくなっているので円高基調ながらも110円を超えて円高方向へ向かうような加速感はないような感じである(図表2)。

1~3月期の鉱工業生産は前期比マイナスの可能性、目先は表面的に弱い主要経済指標が出る局面

1~3月期の主要経済指標は、景気が悪いと思っている人を肯かせる内容になりそうだ。但し、いずれもかなり特殊要因が寄与しそうだ。例えば、鉱工業生産指数を見てみよう。1~3月期の前期比は減少になる見込みだ。3月30日発表の鉱工業生産指数・2月分速報値の前月比は▲6.2%と大幅減少となった。2月分の生産を業種別にみると、愛知製鋼の爆発事故により部品供給の障害から計画減産があった輸送機械工業の前月比は▲10.2%、東アジアの春節による工場停止で部品出荷が少なくなった電子部品・デバイス工業の前月比は▲14.7%、こうした業種が減少幅に寄与している。

経済産業省が公表する鉱工業生産指数の先行き試算値では、3月分の前月比は最頻値で+3.5%、90%の確率に収まる範囲で+2.4%~+4.5%の増加になる見通しだ。先行きの鉱工業生産指数を、3月分先行き試算値最頻値前月比(+3.5%)で延長した場合に、1~3月期の前期比は▲0.8%と2四半期ぶりの減少になる見込みだ。年明けの国際金融市場の混乱と併せ、主に特殊要因によるとはいえ、経済指標が弱含むことが人々の景況感を冷やさないか懸念される局面だ。

景気動向指数を使った景気の基調判断「改善」に戻るのは、早くても7月上旬発表の5月分

景気動向指数、一致系列では、鉱工業生産指数も採用系列になっているので、2月分の一致CIの前月差は2カ月ぶりの大幅下降になると予測される。このため、一致CIを使った景気の基調判断は2月分でも景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」になれずに、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」の判断が継続しそうだ。判断が「改善」に戻るには、「当月の前月差の符号がプラス。かつ原則として3カ月以上連続して3カ月後方移動平均が上昇する」ことが必要だ。しかし、2月分一致CIの3カ月後方移動平均前月差は下降になると予測される。3カ月以上連続上昇の条件を満たすのは、早くても7月上旬発表の5月分になってしまうだろう。昨年5月分から1年間「足踏み」の判断が続くことになる。

「賃金構造基本統計調査」では賃金上昇確認、相撲・競馬・桜、みんな景気の底堅さを示唆している

鉱工業全体でみて在庫調整は進んでいる。鉱工業在庫指数の前年比は16年1~3月期には14年1~3月期以来2年ぶりのマイナスに転じそうだ。4~6月期以降、需要の回復とともに出荷が伸び率を高めてくれば、在庫調整終了ということがはっきりしてこよう。また、大相撲春場所の懸賞本数が地方場所過去最高更新の1672本になり広告費・企業収益の底堅さを示唆している。

「毎月勤労統計」では賃金は伸びていないと指摘されるが、同じ厚生労働省発表の「賃金構造基本統計調査」では賃金は14年に前年比+1.3%、15年に同+1.5%伸びている。3月27日の競馬のG1高松宮記念が2月21日のフェブラリー・ステークスに続き前年比+11%台の売上になるなど、身近な指標から見た景気は底堅い。10~12月期の消費減少をもたらしたエルニーニョ現象も減衰している。今年の東京の桜の開花は3月21日で、平年より5日以上早い開花日の時は景気後退ではないという条件を満たした。夏場以降、景気動向指数を使った機械的判断で景気回復を示唆する「改善」に戻れば、世の中の景況感は明るくなろう。

G7サミットでは、財政出動で協調も

17年4月に予定されている消費税率の10%への引き上げが延長されるという観測が、新聞報道などで流れている。3月18日の読売新聞は一面で「消費増税先送り検討」という大見出しを打った。3月16日の日本経済新聞夕刊には「国際金融経済分析会合」でノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ教授の「現時点では消費増税の時期ではない」との発言を見出しにした記事が出た。後日、同じくノーベル賞受賞者のポール・クルーグマン教授も別の「国際金融経済分析会合」で消費税率引上げについて否定的な見解を示した。

5月18日発表の1~3月期の実質GDP第1次速報値は1~2月分の関連指標をみる限り、もたついた伸び率が予想される。足もとの国内景気が「足踏み」となっている日本は政策発動がやりやすいだろう。5月は20~21日はG7財務相・中央銀行総裁会議、26~27日に伊勢志摩サミットが開催される。3月29日に行われた講演で、イエレンFRB議長は「海外経済や国際金融資本市場の動向に不透明感がある」ため、FRBの追加利上げは「慎重に進めるのが適当」だと発言している。国際会議では新興国を中心に弱含んでいる世界経済への、先進国の対応が話し合われよう。G7諸国のうちドイツは財政出動の余地が最も大きい。ECBや日銀のマイナス金利下は財政出動がやりやすい環境だろう。先進国の財政出動期待が高まる中で、財政面での国際協調に逆行することを回避するとして日本が消費増税を先送りすることへの期待が市場では高まりそうだ。

過去の衆参同日選では、日経平均は上昇

3月18日の読売新聞の見出しには「衆参同日選も視野」とも書かれていた。衆参同日選は過去1980年代に2回あるが、いずれも与党の自民党が勝っている。株価も選挙期間中に上昇し、その後も選挙のあった年の年末まで上昇している。なお80年代は、日本経済が強いことは円高という市場の理解だったので、ドル円レートは円高方向に動いている(図表3)。

なお、16年1~3月期の為替変動の震源地分析してみると、ニューヨーク市場での日々の変化の方向の累積は5円10銭の円高で、東京市場の3円02銭の円高を上回る。また、円高方向への1円超の変動日は5回で、円安方向の変動日の1回や、日本の円高方向の変動日の2回を大きく上回る。1~3月期の円高はニューヨーク市場発によるものだったと言えそうだ(図表4)。

(2016年4月1日現在)